実験皿の中身を「おやつ」と勘違い
事件のきっかけは、母親の仕事でした。
男児の母親は、微生物検査技師で、医療現場から回収した検体入りの培養皿(シャーレ)を運ぶのが日常業務のひとつでした。
その日、母親は3歳の息子を車に乗せたまま、仕事帰りにスーパーで買い物を済ませ、自宅に戻りました。
母親が荷物を家に運び込む間、ほんの数分だけ息子を車内に残しました。
ところがそのわずかな時間に、息子は後部座席に置かれていた培養皿に興味を示し、蓋を開けて中身のほとんどを食べてしまったのです。
その培養皿に入っていたのは「チョコレート寒天」と呼ばれる茶色い培地。
実はこれ、赤血球を壊してつくる栄養たっぷりの「細菌のためのお菓子」のようなもので、色も名前も子どもにはおいしそうに見えたのでしょう。
しかしもちろん本物のチョコレートではなく、中には淋菌がたっぷりと培養されていました。
母親が車に戻ったときにはすでに手遅れ。
息子はほとんど全部を食べ終えていました。
驚いた母親はすぐにかかりつけ医へ。培養皿の残りから淋菌が検出され、息子の喉からの感染が疑われることになりました。