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あらゆる血液型に適合する「ユニバーサル腎臓」に向けて初のヒト試験 / Credit:Canva
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あらゆる血液型に適合する”ユニバーサル腎臓”が初のヒト試験をクリア

2025.10.17 17:00:47 Friday

現代の医療現場では、血液型が異なっていても腎臓移植が可能(ABO血液型不適合移植)となっています。

しかし、この場合は移植を受ける側、つまりレシピエントに大きな負担がかかり、強い免疫抑制や特殊な処置が必要になるため、合併症やリスクも少なくありません。

そのため、より安全で患者にやさしい移植方法を目指して、新しいアプローチの研究が続けられてきました。

そうした中、カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)や中国の研究チームが、あらゆる血液型に適合する「ユニバーサル腎臓」の実現に向けて、人間の脳死モデルで有望な結果を示したと報告しました。

この手法は、A型の腎臓を特殊な酵素でO型に変換し、血液型の壁を乗り越えようとするもので、従来の移植医療の常識を覆すものです。

研究成果は2025年10月3日付の『Nature Biomedical Engineering』誌に掲載されました。

Breakthrough: Scientists Create ‘Universal’ Kidney To Match Any Blood Type https://www.sciencealert.com/breakthrough-scientists-create-universal-kidney-to-match-any-blood-type UBC enzyme technology clears first human test toward universal donor organs for transplantation https://news.ubc.ca/2025/10/universal-organ-transplant/
Enzyme-converted O kidneys allow ABO-incompatible transplantation without hyperacute rejection in a human decedent model https://doi.org/10.1038/s41551-025-01513-6

なぜ「血液型」が腎臓移植の壁になるのか?「ユニバーサル腎臓」という新アプローチ

腎臓移植においては、ドナーとレシピエントの血液型が適合していないと、体の免疫システムが腎臓を異物とみなして攻撃し、拒絶反応が起こることがあります。

これは、血液型を決める「抗原」と呼ばれる分子が腎臓の血管や細胞の表面に存在し、それをレシピエントの免疫が標的にしてしまうためです。

特にO型の患者さんは、原則としてO型の腎臓が適合します(特別な前処置がない場合)。

ところがO型腎臓は、A型やB型の患者さんにも使えるため、移植を待つO型患者の間で慢性的な不足が生じています。

とはいえ、現代では血液型が適合していなくても移植は可能(ABO血液型不適合移植)です。

ただし、レシピエントの体から拒絶反応のもとになる抗体を減らす特殊な治療や、強力な免疫抑制剤の投与が必要でした。

この過程は、感染症や出血、さらには高い医療コストといったリスクを伴い、また準備に長い時間を要するため、臓器が提供されてもタイミングによっては移植が難しくなる場合もありました。

こうした従来の「レシピエント中心」のやり方に対して、今回の研究が打ち出したのは「ドナー側の臓器そのものをO型化する」という新しい発想です。

UBCの研究チームは、A型腎臓に存在するA型特有の糖鎖(抗原)を、特殊な酵素で分子レベルから切り取り、O型と同じ状態に変換することに成功しました。

この酵素は、まるで分子のハサミのようにA型の目印だけを選んで取り除きます。

たとえるなら赤い車の塗装を剥がして、中立な下地が現れるようなものです。

この方法なら、レシピエントの免疫が腎臓を異物と認識しにくくなり、受け手の体に大きな負担をかけずに移植ができる可能性が開けてきます。

さらに、脳死ドナーからの臓器提供にも迅速に対応できるという点で、これまでにない大きなメリットがあります。

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