【東大】白髪が増えるのはがんを防ぐため――「白髪=悪」の常識を覆す!
【東大】白髪が増えるのはがんを防ぐため――「白髪=悪」の常識を覆す! / Credit:Canva
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【東大】白髪が増えるのはがんを防ぐため――「白髪=悪」の常識を覆す! (2/3)

2025.10.27 21:00:41 Monday

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白髪か、がんか――白髪化が体を守るメカニズム

白髪か、がんか――白髪化が体を守るメカニズム
白髪か、がんか――白髪化が体を守るメカニズム / Credit:Canva

研究チームはまず、髪の毛の色をつくる「色素幹細胞」が、どんな運命をたどるのかを調べました。

ただし今回は、難しい数式ではなく、マウスの毛の色の変化を“目で見る”という、とても直感的な方法です。

実験では、遺伝子の仕組みを少し工夫して、毛根の色素幹細胞を光る目印で追跡できるようにしました。

これで研究者たちは、毛根の中で幹細胞がどう生き、どう消えていくのかを、一匹のマウスで観察できるようになったのです。

言ってみれば、顕微鏡の中で「毛髪ドラマ」をリアルタイムで撮影しているようなものです。

次に彼らは、そのマウスに二種類の「ストレス」を与えました。

ひとつは放射線のように、DNAを直接傷つけるタイプ。これは細胞の活動を止めてしまう強い攻撃です。

もうひとつは発がん剤(DMBA)や強い紫外線といった、がんを誘発しやすいタイプです。

前者は“細胞の寿命を終わらせるストレス”、後者は“細胞を暴走させるストレス”。

つまり、「ブレーキ」と「アクセル」、正反対の二つの刺激を与えたわけです。

ここからが本題です。

放射線を浴びたマウスでは、毛の色が劇的に変わりました。

細胞のDNAが壊れると、色素幹細胞は「老化連動分化」と呼ばれる現象を起こします。

簡単に言えば、幹細胞が自分で「もう働けない」と判断し、静かに職場(毛根)を去るのです。

このとき毛根は新しい色素を作れなくなり、次に生えてくる毛は色を失って白髪になります。

けれど、この現象は単なる老化ではありません。

研究チームは、この「自発的な引退」こそが、危険な細胞をがん化から守る仕組みだと考えました。

言い換えれば、細胞が潔く身を引くことで、組織全体を守っているのです。

これはまるで、傷ついた兵士が前線から退くことで全体の被害を防ぐような、自己犠牲の防御にもたとえられます。

実際、白髪になったマウスでは、皮膚にできるメラノーマ(皮膚がん)の腫瘍数が減少する傾向が見られました。

メラノーマが起こりやすいマウスでも、放射線を当てて白髪を誘導したグループのほうが、そうでないグループより腫瘍の数が少なかったのです。

つまり、白髪という見た目の変化の裏で、がんを防ぐシステムが静かに働いていたことになります。

一方で、発がん性のストレスを受けたマウスでは、まったく逆の現象が起きました。

DMBAや強い紫外線を浴びた色素幹細胞では、本来働くはずの「老化して退場する」プログラムが止まってしまったのです。

その結果、ダメージを負った幹細胞が毛根の中に残り続け、しかも自己増殖をやめませんでした。

毛の色は黒いままで、一見すると健康そうに見えますが、内部では異常な細胞が少しずつ増えていきます。

幹細胞が引退せずに居座った結果、がん化の方向へと進み始めてしまったのです。

実際、DMBAを塗ったマウスの皮膚では、異常な細胞が増殖して前がん状態を作り出しました。

さらに、ニッチ(幹細胞のすみか)でKITLという増殖の合図が過剰に出たり、特定の遺伝子を持つマウスでは、これがメラノーマへ進行することが確認されました。

つまり、DMBAの影響だけでなく、周囲の環境や遺伝的条件が重なると、病変ががんに発展する可能性があるのです。

研究チームはこの結果を「同じ幹細胞でも、ストレスの種類によって真逆の運命をたどる」とまとめました。

老化ストレスを受けた細胞は白髪という安全な出口へ、発がん性ストレスを受けた細胞は危険な暴走の道へ。

たった一つの細胞がどちらの道を選ぶかで、体全体の運命が変わる――それが今回の発見です。

そして、この発見が特に興味深いのは、「白髪=老化=悪いこと」というこれまでのイメージを大きく変えた点にあります。

白髪は決して「老いのサイン」だけではありません。

むしろ、体の中でがんを防ぐための自然なブレーキとなり「危ない芽」を摘み取った跡なのかもしれません。

見た目は少し寂しくても、その裏では、命を守る静かな英断が行われていたのです。

次ページまとめ:白髪化に代表される老化は体を「がん」から守っている

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