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「リアルマインドハンター」45人の連続殺人犯の自白とインタビューを分析した研究 (2/3)

2025.11.23 12:00:04 Sunday

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性的動機を持つ連続殺人犯の典型例

今回の研究で分析された45人の連続殺人犯は、すべて匿名化されています。事件名や犯行場所、犯人の固有名詞は論文には一切記載されていません。これは、使用された多くの資料が警察や司法機関の内部記録であり、法的・倫理的な理由から詳細が伏せられているためと考えられます。

ただ、心理パターンの説明だけでは、読者の多くは具体的なイメージを描きにくいでしょう。

そこでここでは、今回の研究とは別に、FBI資料や犯罪心理学の主要研究で繰り返し取り上げられ、今回の分析で示されたナルシシズムの4因子とも重なる“典型的な事例”を紹介します。

これらは学術的に広く引用されている連続殺人犯の代表例であり、犯人の心理構造を理解する上での役立つはずです。

■テッド・バンディ:魅力を武器に「特別な自分」を演じ続けた男

テッド・バンディは、1970年代のアメリカで若い女性を狙った連続殺人犯として知られています。

大学構内や街頭で腕を吊ったり松葉杖をついたりして「困っている青年」を演じ、被害者の善意につけ込むかたちで車に誘い込み、その後に拉致・殺害するという犯行を繰り返しました。

外見は魅力的で、学生や地域住民から「礼儀正しい青年」と見なされていたため、その“普通さ”と犯行の残虐性の落差が大きな衝撃を生みました。

事件が露呈したのは、複数の生存者と目撃者が語った証言が共通点を持っていたことが大きな要因でした。

「テッド」と名乗る男だった、という証言や、特徴的な車の情報が重なり、彼が捜査線上に浮かび上がります。

その後の逃亡期間にも複数の事件が発生し、行動範囲と犯行が結びついたことで、最終的には逮捕・有罪判決に至りました。

バンディは逮捕後も「自分は特別だ」と思わせるかのようにふるまい、テレビ番組に登場したり、自ら弁護を行ったりするなど、誇大的な賞賛欲求がはっきりとみられました。

しかし同時に、批判を受けたときには「誤解されているのは自分だ」と反発したり、被害者意識をにじませたりする場面もあり、脆弱な敵意と誇大性が複雑に同居していました。

この“強さ”と“弱さ”の併存は、今回の研究で明らかになった心理要素を象徴する典型例と言えます。

■デニス・レイダー(BTK):模範的市民の顔を持ったまま、裏で支配欲を募らせた男

デニス・レイダーは、アメリカ・カンザス州で1970年代から1990年代にかけて少なくとも10人を殺害した人物です。

家に侵入し、被害者を縛り、拷問し、殺害するという手口を繰り返し、自ら「BTK(Bind, Torture, Kill)」と名乗って警察へ犯行声明を送りつけていました。

外側の生活では家庭を持ち、地域で模範的な市民として振る舞い、教会では役職を務めるなど“善良な父親”の顔を見せていました。

しかし裏では警察に手紙を送り挑発し、自分の存在を知らしめようとする行動を繰り返しており、この二重性が長いあいだ捜査を困難にしました。

事件が大きく動いたのは、レイダー自身が送ってきたフロッピーディスクでした。警察がデータを解析したところ、教会のコンピュータで作成された痕跡が残っており、それが本人へと直接つながる決め手になります。

レイダーの言動には、警察を挑発して優位に立とうとする誇大的な競争心が顕著に表れていました。一方で、地域社会で“良い父親”として評価されることに強いこだわりがあったことは、脆弱な孤立や承認欲求が内側に存在していたことを示しています。

誇大と脆弱が結びつくこの構造は、今回の分析で示された心理因子と密接に重なります。

■アンドレイ・チカチーロ:孤立の人生が“社会への恨み”へとつながった男

アンドレイ・チカチーロは、旧ソ連時代に50人以上の女性や子どもを殺害したとされる連続殺人犯です。

多くの犯行は鉄道駅やバス停など、人目の少ない場所で被害者に声をかけ、人気のないところへ誘い出すという形で行われました。

幼少期には飢餓や貧困に苦しみ、学校では同級生から孤立し続けた経験を持つなど、人生全体に強い孤立と不遇が重なっていました。

事件が明らかになったのは、被害者が急増し、警察が「同一犯による一連の事件」と判断して大規模な捜査を開始したことがきっかけでした。

駅周辺の監視が強化される中で、挙動不審なチカチーロが警官に尾行され、衣服に残っていた血痕が被害者と結びついたことで逮捕に至りました。

彼は取調べの中で、「社会に見捨てられた」「自分は犠牲者だ」と繰り返し語り、自分を傷つけた社会への恨みを語る姿勢を強く見せました。

これは、今回の研究で最も頻繁に確認された“脆弱な敵意”の心理パターンときわめてよく一致しています。

孤立と恨みが結びつくことで暴力行動が強化されるという構図を、現実の事件として体現した例といえます。

■ジャック・ウンターヴェーガー:文学的成功と「更生」の仮面をまとい続けた男

ジャック・ウンターヴェーガーは、オーストリア出身の作家でありながら複数の女性を殺害した連続殺人犯として知られています。

若い頃から犯罪歴があり、1970年代には殺人で終身刑を受けましたが、獄中で執筆した作品が評価され、国内の知識人から「更生した芸術家」として支持を受けるようになります。

世論の後押しもあり仮釈放されると、メディア露出が増え、文化人として積極的に表舞台に立つようになりました。

しかし、彼が渡航した地域で似た手口の殺害事件が次々に起こり、被害者の状況や犯行の特徴が不自然なほど重なっていたことから、警察が事件を照合し、最終的に国際手配につながりました。

逃亡先のアメリカで逮捕され、オーストリアに送還されて裁判にかけられましたが、有罪判決後に自殺しています。

ウンターヴェーガーは、自分の才能や社会的評価に強い確信を持ち、称賛されることに執着する誇大的な側面を持っていました。

同時に、批判や否定に極めて敏感で、脆弱な孤立感を抱える場面も多く、成功と承認の仮面の裏に、怒りや不安定さを抱えていたことが示唆されます。

この二重性は、今回の研究で指摘された「誇大的な賞賛欲求」と「脆弱な孤立」の複合的な構造と深い共通点を持っています。

次ページ“さらに深く知りたい人”のための分析解説

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