“さらに深く知りたい人”のための分析解説
研究についてざっくり解説しましたが、ここではもう少し詳しく分析された内容について解説していきます。
連続殺人犯の語りを分析すると、多くの人が「自信に満ちた語り」と「傷つきやすい心」を同時に抱えていることが見えてきます。
この相反する二つの面は偶然ではなく、心理学ではナルシシズムがそもそも“強さと弱さのセット”として働くものなのだと解釈されています。
今回の研究では、犯人の語りの中で、他人からほめられたいという賞賛欲求と、周囲を押しのけようとする競争心が強く結びついていました。
一方で、他者との距離を感じる孤立の感覚と、周囲を敵視する恨みの感情も密接に共存していることが明らかになりました。
これは「自分は偉い」と思いたい一方で、「他人に拒絶されるのが怖い」という矛盾した感情が常に心の中に漂っていることを示しています。
こうした二面性を抱え続けると、心の中にある緊張が行動に反映され、支配的なふるまいや暴力的な態度、さらには儀式のような行動へとつながっていく可能性があります。
自慢話の裏側にある“守りの心理”
取調べの場では、犯人が突然過去の自慢話を始めたり、自分を大きく見せる発言が増えたりすることがあります。
研究では、こうした誇大的な語りが単なる自信のあらわれではなく、「自分の価値が揺らぎそうだ」という不安から生まれる“防衛反応”であると解釈されました。
また、取調べ中に見られる「過剰な説明」や「必要以上の弁明」も、脆弱性の裏返しとして理解できます。
犯人たちは、自分の心が壊れないように守るために、誇大的な態度をまとっている場合が多いのです。
脆弱性が強いほど危険性は高まるのか?
今回の研究で最も多かったのが「脆弱な敵意」でした。
他人への疑念や妬みが強く、常に“自分が攻撃される側だ”という被害者意識が根を張っていました。
孤立と恨みが結びつくと、「社会から奪われた」「自分は犠牲者だ」という思い込みが強くなり、行動のハードルが一気に下がることが過去の研究でも指摘されています。
こうした心理が暴力行動と関わりうることは先行研究で指摘されており、本研究でも脆弱な敵意がもっとも高頻度で見られていました。
ただし、研究は慎重な姿勢も示しています。
論文では、「ナルシシズムだけで犯罪を予測することはできない」と明確に述べられており、一般の人にも広く存在する特性で、決して“犯罪者だけの特徴”ではないと注意されています。
そのため、「ナルシシズム=危険人物」という短絡的な結びつけ方をするべきではありません。個々の状況やほかの性格特性との組み合わせが重要なのです。
この研究がもつ実践的な意味
連続殺人事件は非常にまれで、これまでの研究の多くは有名事件を扱ったケーススタディに頼っていました。
今回のように45人分の自白や面談記録を体系的に分析した研究は珍しく、犯人たちの語りに共通する心理構造が初めて明確に可視化されたことには大きな価値があります。
その結果は、捜査現場でのプロファイリングや、犯罪の背景にある心のメカニズムを理解するための重要な手がかりになるでしょう。
一方で、この研究にはいくつかの限界もあります。
資料の多くは自白や取調べ記録であり、語りの信頼性には注意が必要です。
犯人が意図的に情報を操作している可能性や、虚偽が混じる可能性は完全には排除できないと論文でも述べられています。
また、今回の対象はすべて男性で性的動機をもつ犯人だったため、女性犯や非性的動機の連続殺人犯に同じ心理構造が当てはまるかはわかっていません。
今後は、ナルシシズム以外の個性――サディズム、衝動性、精神病質など――との関係をより精密に調べることが求められます。
犯人像をより具体的に理解するためには、こうした複数の性格特性を組み合わせた分析が不可欠なのです。





























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