単細胞の遺産を“生殖用”に再配線

今回の研究は、精子に使われる分子ツールキットは多細胞動物よりも古いという大胆な結論を打ち出しました。
私たちの体(多細胞体)の中にある精子という小さな細胞が、実は体そのものより古い進化史を背負った“祖先の遺産”だというのです。
これは多細胞の体は精子や卵といった生殖細胞を守り運ぶために「後から」進化した入れ物に過ぎないという理論と重なります。
この視点は、19世紀の生物学者ヴァイスマンの唱えた「生殖細胞こそ不死で、体はその乗り物にすぎない」という考え方(胚細胞説)によるものです。
コラム:体は乗り物に過ぎないとは?――精子のようだった単細胞たち
「生殖細胞こそ不死で、体はその乗り物にすぎない」というのは少しショッキングな言葉ですが、意味をたどっていくと、生命の成り立ちがかなりはっきり見えてきます。私たち一人ひとりの体は、時間がたてば老いて消えていきますが、精子や卵の系列は、はるか昔の祖先から今まで、世代を飛び石のように渡り続けている「途切れない線」です。乗り物は代替わりしてスクラップになりますが、その中を走る“本体”である生殖細胞の流れだけはずっと続いている、というイメージです。では、この「本体」はどこから来たのでしょうか。さかのぼると、多細胞の体が生まれる前、世界はほとんど単細胞生物だらけでした。単細胞生物の多くは、普段は一個の細胞として暮らしていましたがときどき、お互いに近づいて接合し、遺伝子を混ぜ合わせます。このときの単細胞は、役割だけを見ると、すでに精子と卵の両方の原型を兼ねていたとイメージすることもできます。自分自身が動いて相手を探し、自分自身が融合して次の世代の“種”になるからです。その時点の単細胞は「全身がほぼ精子+卵の原型になっているモード」に入っている状態だった、と考えることができます。その後、進化が進んで多細胞の体ができてくると、体部分と精子や卵子部分が違う細胞で作られるようになりました。日常生活や行動を担当する細胞たちと、世代をつなぐ生殖細胞たちに仕事が分かれ始めるのです。ここで初めて、「親の体から切り離されて、単独で泳いでいく精子」というスタイルが意味を持ちます。単細胞の祖先のころは、そもそも体と配偶子が同じものなので、「本体から放出されていく精子」という構図そのものが存在しませんでした。ですから、現在のような「体の中で作られ、外に放たれて卵を探しに行く精子」という意味での精子は、多細胞化の後に誕生したものだと考えられます。しかし今回の研究では、後の放出型の精子の基本的な部品の設計図(遺伝子)のほうが単細胞生物時代に誕生したことを教えてくれました。
この発見が面白いのは、進化の謎を解明しただけでなく実用的な示唆も与える点です。
精子という“一種の化石”を解析することで、進化のどの段階の要素が現在の生殖能力に不可欠かが浮かび上がりました。
例えば、進化的に古いタンパク質群ほど男性不妊と強く関連していることが示されたことで、将来的に不妊症の診断や治療の有望な分子標的を絞り込む手がかりになります。
進化の深さ(古さ)がそのまま「なくてはならないパーツ」であることを意味するなら、最古層の遺伝子を優先的に調べることで不妊の原因解明が効率化できるかもしれません。
このように本研究は、進化学と医学を結ぶ新たなアプローチとしての価値も秘めているのです。
研究チームは本研究で得られた大量の精子タンパク質データを公開し、今後さらなる検証や応用研究に役立つリソースも提供しています。
32種類の動物種それぞれの精子に含まれるタンパク質とその進化的な「古さ」、さらには人間の場合は各タンパク質の発現部位や不妊症との関連情報までまとめられており、進化生物学者だけでなく生殖医療の研究者にとっても貴重なデータベースとなっています。
これにより、「精子の進化地図」がコミュニティ全体で共有され、今後は他の細胞種についても同様のアプローチが展開されていくことが期待されます。


























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