洪水という新たな試練と、調査で見えた現実
ダムを止めたことで、このカエルの未来が保証されたわけではありませんでした。
2024年、リオ・グランデ・ド・スル州は記録的な豪雨と洪水に見舞われます。
州内では約240万人が影響を受け、川は氾濫し、各地で壊滅的な被害が出ました。
Forqueta川も例外ではなく、水位は場所によって20メートル以上上昇し、川沿いの景観は一変しました。
岩盤露頭は水に飲み込まれ、植生は引きはがされ、卵やオタマジャクシ、さらには成体までもが流された可能性がありました。
生息地が一か所しかないこのカエルにとって、たった一度の大洪水が、種全体の消失につながりかねない状況だったのです。
洪水から約一年半後の2025年、研究者たちは現地に戻り、これまでと同じ方法で調査を行いました。
31の区画に分けた調査地を歩き、個体を探し、腹部の模様を撮影して記録します。
その結果、2日間で成体や幼体、オタマジャクシを含む111個体が確認されました。
交尾行動や幼生も見つかり、繁殖サイクルそのものは維持されていることが分かりました。
一方で、以前もっとも個体が集中していた場所が使われなくなるなど、生息場所の使い方が変化している兆候も見られました。
環境が元通りになったわけではなく、カエルたちは変化した環境に適応しながら、ぎりぎりで生き延びていると考えられます。
今後の脅威は洪水だけではありません。
周辺ではタバコや大豆、ユーカリの単作が進み、森林は分断されています。
生息地は私有地であり、観光地として利用されている側面もありますが、正式な保護区はいまだ設立されていません。
さらに、目立つ体色は、希少性ゆえに違法取引の対象になるリスクも抱えています。
このカエルの物語が示しているのは、「ダム建設を止めたから安心」という単純な話ではありません。
科学的な調査、法制度、地域社会の協力がそろって初めて、一種が生き延びる余地が生まれます。
そして気候変動の時代には、その努力の上に、さらに大きな不確実性が重なります。
これほど厳しい条件が重なった中で小さな両生類が今も生きているという事実は、絶滅危惧種の存続がどれほど不安定で奇跡的なものなのかを教えてくれます。



























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