見えないところで進んでいた“遺伝子の劣化”
研究チームが次に調べたのは、DNAそのものの変化でした。
さまざまな世代から選んだ再クローンマウス10匹の全ゲノム配列を調べ、自然交配を60世代続けたマウスと比べたところ、クローンマウスでは自然交配のマウスより3倍高い頻度で突然変異が起きていることが分かりました。
しかも、成功率が下がり始めた27世代目以降には、生存に深刻な影響を与えかねない大きな変異が増えていました。
45世代目では7番と9番の染色体の間で転座が見つかり、57世代目ではさらに12番と16番の転座も確認されています。
X染色体の1本が失われていた個体もありました。
ここで重要なのは、クローンでは一度生じた変異がそのまま次世代に引き継がれることです。
有性生殖なら、交配と組換えによって有害な変異が分離され、減っていくことがあります。
ですが再クローニングでは、その“整理”が起こりません。
変異は少しずつ積み重なっていくのです。
それでも再クローンマウスが見た目には健康だったのは、見つかった変異の多くがヘテロ接合、つまり片方の遺伝子だけに入っていたからです。
片方が正常なら、すぐには大きな異常が出ない場合があります。
ところが世代が進むと、同じ場所の変異が重なったり、大規模な構造変異が増えたりして、ついに補えない段階に達します。
研究チームは、58世代目でその限界を超えたのだと考えています。
さらに、再クローンマウスの生殖能力も調べられました。
20世代目までは自然交配のマウスと同じように、1回の出産で約10匹の子を産みました。
ところが50世代目以降では、妊娠はできても産まれる子は数匹にまで減っていました。
ちなみに、再クローンマウスを正常なオスと交配させ、その子孫を追うと、産仔数は再び正常に近づいていきました。
これは、有性生殖によって有害変異の一部が整理されるためだと考えられます。
この結果は、なぜ哺乳類が有性生殖を続けてきたのか、という大きな問いにもつながります。
有性生殖にはクローン生殖でたまりやすい有害変異を減らす役割があるのかもしれません。
もちろん、これはクローン技術そのものが無意味だという話ではありません。
クローンは、希少な遺伝資源の保存や、将来の医療・畜産への応用にとって今も重要な技術です。
ただ今回の研究は、現在の核移植技術のままでは、クローンからクローンを無限に作り続けることはできないと示しました。
今後は、なぜ変異がたまりやすいのかをさらに詳しく調べ、有害な変異を起こしにくい、より安全なクローン技術を開発していく必要があります。




























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