原始ブラックホールの爆発が「物質が反物質に勝った」理由かもしれない
原始ブラックホールの爆発が「物質が反物質に勝った」理由かもしれない / Credit:Canva
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原始ブラックホールの爆発が「物質が反物質に勝った」理由かもしれない (2/3)

2026.04.06 21:30:42 Monday

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原始ブラックホールの荒々しさが「物質と反物質」に差を生んだ

原始ブラックホールの荒々しさが「物質と反物質」に差を生んだ
原始ブラックホールの荒々しさが「物質と反物質」に差を生んだ / Credit:Canva

なぜ原始ブラックホールが荒れ狂うと、物質と反物質のバランスが崩れたのか?

この問いに答えるためには、まず宇宙を支配している「力」の話から始める必要があります。

現在の物理学では、この世界で起きるあらゆる現象は、4つの基本的な力で説明できると考えられています。

それが、重力、電磁気力、弱い力、そして強い力です。

たとえば重力は物体を引き寄せ、電磁気力は電気や磁石の働きを生み、弱い力は放射性崩壊のような現象に関わり、強い力は原子核をしっかりと結びつけています。

ただし、これは「今の宇宙」での見え方です。

宇宙が誕生した直後のような極端に高温の状態では、これらの力は今のようにきれいに分かれておらず、よりシンプルな姿で振る舞っていたと考えられています。

その中でも、今回の話で特に重要なのが、「電磁気力」と「弱い力」の関係です。

この2つは現在では別々の力として働いていますが、宇宙が非常に高温だったころには、まだ分かれておらず、ひとまとまりの状態にありました。

しかし宇宙が膨張して冷えていくにつれて、このまとまりは保てなくなり、電磁気力と弱い力は現在のように別々の力へと分かれていきました。

つまり宇宙の歴史の中で、「ひとつだった状態」から「分かれた状態」へと変化が起きたわけです。

ここで大事なのは、この変化が絶対的な一方通行ではないという点です。

温度が下がれば分かれ、逆に温度が十分に上がれば、再び元のまとまった状態に近づくことができます。

言い換えると、「分離」と「統合」は、温度によって行き来できる、いわば可逆的な変化なのです。

そして初期宇宙のある時期は、ちょうどこの境目の近くにありました。

宇宙全体としてはすでに冷えていて、電磁気力と弱い力は分かれた状態にありましたが、その差はまだ大きくはなく、少しだけ温度を押し上げれば、再び元の状態に戻りうる、そんなギリギリの条件にあったと考えられます。

たとえば原始ブラックホールが発する衝撃波などは、そんな一瞬の逆戻りを起こし得る候補になり得ます。

原始ブラックホールが発する莫大なエネルギーは、周囲の粒子を一気に圧縮し、衝撃波とともに局所的に温度を押し上げます。

冷えた粒子が急に圧縮されて高温になり、「弱い力と電磁気力が統合していた領域(電弱対称性が回復した領域)」になり、一方で、その後ろでは時間とともに温度が下がり、「再び分離する領域」へ戻っていきます。

つまり初期宇宙の中を、「一時的に物理法則の顔つきが変わった領域」が走り抜けていくわけです。

論文によれば、この境目の温度をおよそ1900兆度(162GeV)としています。

とんでもない高温ですが、それよりも重要なのは、宇宙の性質の在り方を一瞬だけ先祖返りさせてしまう、相転移のフィルターのようなものが動いていたという点です。

ではなぜこの相転移フィルターが、物質と反物質の比率を変えたのでしょうか?

2026年3月30日に『arXiv』にて発表された関連論文では、この「動く境界」が、粒子と反粒子が少し違って振る舞う左右差のような仕組みがある場合、物質と反物質の差を生む結果につながると述べています。

具体的には、その高温の境界で活発になる特殊な過程(スファレロン過程)が重要になります。

この特殊な過程をざっくり言えば、「粒子の数や組み合わせ設定をまとめて変えてしまう高温の反応」が起こると考えられています。

十分な熱があると普段は起きない化学反応が起こるように、初期宇宙に匹敵する熱環境を作ると、冷えた後の宇宙では起きない異常な現象が起きるのです。

この想定のもとでは、粒子と反粒子が境界を通過するときには、完全に同じ振る舞いをせず、ほんのわずかな在り方の偏りが生まれるとされています。

ただこの段階では、まだ粒子の数というはっきりした差ではなく、いわば“種”のような小さなズレにすぎません。

次に、その領域が物理法則が違う高温の殻の中に入ると、スファレロン過程が働き始めます。

すると、この小さな方向的な偏りが「陽子や中性子のもとになる側の粒子が、反対側の粒子より少し多く残る」という数(バリオン数)の差へと変換されます。

境界の前で生まれた今の宇宙的な何気ない偏りが、性質が違う宇宙の中で粒子の数の差というものに変わってしまうのです。

そして最後に重要なのが時間です。

この高温の殻はその場にとどまるのではなく、衝撃波とともにすばやく移動していきます。

そのため、偏りを作って変換する時間は一瞬しかなく、そのあとすぐに宇宙は再び冷えた状態へ戻ります。

すると陽子や中性子のもとになる粒子を変える反応はほとんど止まってしまい、作られた差がそのまま残りやすくなります。

つまり、この仕組みは

「境界で小さな偏りを作る → 高温でそれを物質の差に変える → すぐ冷えて固定される」

という三段階で働いているのです。

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