並び方に、前例がなかった

物質の顔つきを決めるのは、材料だけではありません。
鉛筆の芯の黒鉛と、ダイヤモンド。どちらも炭素だけでできています。
違うのは原子の並び方だけです。それだけで、柔らかい黒い粉と、世界一硬い宝石に分かれます。
金属も同じです。同じ材料でも、原子がどう積み上がるかによって、硬さも、粘り強さも、錆びやすさも変わります。
そこで研究者たちは、ケイ素の多い4粒目について、原子の並び方を調べました。
浮かびあがってきたのは、立方体の枠の中に、原子が一つひとつ決まった席におさまった姿でした。
金とアルミニウムの化合物などで知られる形です。
形そのものは、以前から知られていました。
しかし鉄とケイ素をたっぷり含んだこの顔ぶれが、その形をとっている例は新発見でした。
金属の世界には、たくさんの種類を混ぜることで強くなる合金があります。
混ぜることで元素が席を奪い合って雑然と並ぶからこそ、原子が動きにくくなり、丈夫になるのです。
4粒目に含まれていたのは、ケイ素のほかに鉄、クロム、ニッケル、マンガン、モリブデン、アルミニウム。
この顔ぶれと比率だけを見れば、ステンレスと同じように、元素は入り混じって並ぶはずでした。
ところが、この粒はそうなっていませんでした。
複数の元素を含みながら、原子の配置にははっきりした秩序があるという、報告例のない、規則正しい立方体の構造をとっていたのです。
さらにケイ素の原子のまわりを見ると、12個の金属原子が、サイコロを二十面にしたような、少しゆがんだ殻をつくって取り囲んでいることもわかりました。
この「12個で囲む」かたちは、準結晶と言われる構造に見られるものでもあります。
今回発見された合金は準決勝そのものではありませんが、原子の集まり方は、局所的に準結晶によく似た顔つきをしていました。
ビンディ氏はこの点について「これは、核爆発が既存の物質を単に溶かしたり変形させたりするだけでなく、複雑で規則的な結晶合金を作り出すことができることを示しています」と述べています。
では、なぜそんな並びが残ったのでしょうか。
火の玉の中では、あちこちの材料から出てきた金属が、いっせいに蒸気になりました。
ふだんなら顔を合わせることのない元素どうしが、逃げ場のない場所に押しこめられたようなものです。
それが溶けた金属の小さな玉になって集まり、次の瞬間には固まりました。
合金の原子は、時間さえあれば、入り乱れた状態に落ち着きます。
けれどヒロシマアイトの生成には時間がありませんでした。
研究者たちは、急に冷やされたせいで、雑然とした並びになる前の規則正しい状態で固定されてしまったと考えています。
ビンディ氏は「どんなに小さな液滴も、事実上、それぞれが独立した実験になるのです」と言います。
ごく小さな器の中で、その場かぎりの配合が決まり、そのまま固定されるからです。
広島の上空で、そんな試行が数千とも数百万ともつかない数、同時に走りました。
そのうちのたった一つがこの合金を作り、たまたま砂浜まで流れ着き、人の手に拾われたのです。
これほど鮮やかな結果が出ると、もっと調べたくなるところですが、研究者たちは慎重です。
論文でも、こうした残骸を扱う研究は、倫理と法にきちんと管理されたかたちで進められるべきだと書き添えています。































