数マイクロメートルの記録装置

こうした粒には、地味ですが確かな使い道があります。
ひとつは「核鑑識」。残骸から爆発の中身を割り出す、いわば科学捜査です。
含まれている元素をたどれば、何が爆発に巻きこまれたのかがわかります。
原子の並び方からは、どこまで温度が上がり、どれくらいの速さで冷えたのかが読み取れます。
ビンディ氏によれば、こうした粒は「爆発時の装置の材料、周囲の環境、熱と化学の条件についての情報を、そのまま抱えこんでいる」といいます。
公表されていない核実験の痕跡をたどる手がかりにもなり得ます。
ビンディ氏は「数十年たったいまでも、たった数マイクロメートルの粒が、一瞬しか存在しなかった状況をこまかく記録していることがあります」「これらは、単に溶けた破片ではありません。爆発そのものの記録なのです」と述べています。
さらに今回の研究成果は、金属を作る側の人々にとっても興味深いものです。
鉄とクロムとニッケルの組み合わせは、錆びにくい材料の土台になっています。
そこにケイ素と少しのアルミニウムが加わり、しかも原子がきちんと整列した形におさまると、原子どうしの結びつき方そのものが変わります。
硬さや、熱への強さ、磁石としてのふるまい。まだ誰も試していない組み合わせが、この形の中に眠っているかもしれません。
使えそうなのは、成分表ではなく設計図のほうです。
この並び方を手本にすれば、もっと現実的な材料にたどり着けるかもしれません。
溶かした金属を一気に冷やす方法、粉末から固める方法、3Dプリンターのように積み上げる方法。核爆発を起こさなくても、既存の技術で近い構造を探せる可能性があるといいます。
ビンディ氏も「もしこれが広く成り立つ話なら、原爆の残骸は、隕石の衝突や落雷といった自然界の激しい現象にも当てはまる、物質の生まれ方の原理を解き明かす助けになるかもしれません」と述べています。
ただし、ここまでの話はすべて、直径10マイクロメートルほどの、たった1粒から導かれたもので、すぐに実用的な合金になるわけではありません。
量産方法もわからないからです。
今回の研究には加わっていない、カーネギーメロン大学の物理学者マイケル・ウィドム氏は、ビンディ氏の着眼をこう評しています。
新しい物質を見つけたいなら、それは普通ではない場所にあるはずだ——彼はそのことを正しくわかっている、と。
穏やかな場所に、変わった物質は残りません。
この合金にとっての「普通ではない場所」は、あの朝の広島でした。
原子の並びが新しかったからといって、それを生んだ出来事が和らぐわけではありません。火の玉が飲みこんだのは、鉄骨やガラスや土だけではなかったからです。
生まれるのにかかったのは、数秒でした。見つかるまでには、80年かかりました。そして、その数秒が奪ったものは戻ってきません。
この一粒が記録しているのは、物質の新しい可能性であり、同時に、あの日そこで起きたことなのです。































