・若い動物の血液を高齢の動物に投与すると、加齢に関与する病気が発生せず、高い認知機能が維持されることが明らかになった
・ヒトを対象とした研究も進んでおり、米国のスタートアップ企業数社がすでにこの治療法を利用したサービスを人々に提供している
・腸内菌などの血液以外の因子も、若い人から高齢者に投与することで、健康維持や若返りの機能を発揮する可能性がある
健康に長生きする秘訣は、バランスの良い食事や適度な運動だということは誰もが知るところです。しかし「若い人の血を取り入れること」も鍵になる可能性を知っていましたか?ちょっぴり「ドラキュラ感」のあるこの治療法、一体どんな治療法なのでしょうか。
9月5日付けで”Nature“に掲載された論文で、若い動物の血液を高齢の動物に投与すると、加齢に関与する病気が発生せず、高い認知機能が維持されることが明らかになりました。
Facing up to the global challenges of ageing
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0457-8
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのリンダ・パートリッジ教授は、若いマウスの血液を高齢のマウスに投与する実験と、反対に高齢のマウスの血液を若いマウスに投与する実験を実施。その結果、若いマウスの血液を与えられた高齢のマウスには、加齢に関係する病気が発生せず、高い認知機能が維持されました。一方で、高齢のマウスの血液を与えられたマウスには、加齢に関係する病気が生じ、認知機能の低下が見られたとのことです。
この実験により、若いマウスの血液が生命力維持や若返りに役立つことがはっきりと判明しました。パートリッジ教授はこの研究結果について、「生物は死を免れることはできないが、死ぬ前に病気を患うことは避けられることを意味する」と考えています。
今後「若い人の血を提供」するサービスが主流に?
実はこの種の治療法は、ヒトに対してもすでに実践されています。『アンブロージア(Ambrosia)』という米国のスタートアップ企業が、10代の被験者の血漿を、中年または老齢の被験者に提供しているのです。2.5リットルにつき8,000ドルという高額サービスですが、シリコンバレーのお金持ちに人気のサービスなのだとか。
一方、ハーバード大学の研究者らが創業メンバーである『エレヴィアン(Elevian)』という別のベンチャー企業は、もう少し「ドラキュラ感」が低いアプローチを取っています。彼らが注目したのは、GDF11という若返りに関わる血中タンパク質。GDF11を血中に定期的に投与することで、すべての血液を入れ替えることなく、若い血液の効果を再現することができるのとのこと。
一般の感覚では「意味があるの?」と思ってしまうこれらのサービスですが、パートリッジ教授は、その効果を判断するのはまだ早すぎると考えています。近い将来、この種の治療法はごく一般的なものになりそうです。「タバコを止めたり、食べ過ぎに注意したり、十分な運動を行ったり…と、生活習慣を変えるのが一番の近道だということは、皆もちろんわかっています。ただ、これらを進んで実行する意志を、全員が持っているわけではありません」と、この新しい治療法に大きな期待を寄せています。
加齢による病気の増加が公共医療サービスを崩壊させかねないと危惧される高齢社会において、これまでの治療法に代わる新しい治療法が必要とされていることは確かです。しかし血液だけが、若者が高齢者を元気に保つために提供できる唯一の「製品」というわけではありません。若い人の腸内菌を高齢者の腸に投与することで、鈍くなった菌の働きを活性化できる可能性も示されています。
「長生きする人ほど、亡くなるまでの健康状態がかなり良いことがわかっています。ですから、彼らは老人ホームで過ごすことはありません。子どもたちが、人生の最後にできるだけ病気で苦しむことなく健康に過ごし、最後は眠りながら安らかに亡くなる…そんな未来を再現したいのです」
「ドラキュラ療法」が、健康維持や若返りを叶える治療法として世の中に広まる日は近いかもしれません。ドラキュラの目の付け所は間違っていなかったようです。
via: The Times / translated & text by まりえってぃ