衛星の運命は「惑星の自転」と「衛星の公転」の速さ比べ

衛星が惑星から遠ざかっていくのか、それとも近づいていくのか。
それを決めるのは、惑星の自転と衛星の公転の「速さ比べ」です。
衛星は、惑星の重力に引かれる力と、公転によって外へ向かう遠心力が釣り合うことで、惑星のまわりを回り続けています。
ただ中心の惑星は完全に固まった球体ではないため、衛星の引力で、惑星の表面はわずかに衛星のほうへ盛り上がり「コブ」のような質量の偏りが発生します。
惑星の自転のほうが速いと、この「コブ」は自転に運ばれて衛星より先へ進み、コブが持つ重力で衛星を前へ引っ張ります。
惑星規模のコブはその質量によって惑星の重心とは異なる無視できない重力源となり、惑星の自転によって衛星の公転を加速させることになります。
そして公転の勢いが増した衛星は遠心力が重力を上回り、少しずつ外側の軌道へ移っていきます。
実際、地球は月の公転より約27倍も速く回っているので、月は年に約4cmのペースで離れていく側にいます。
(※これまでの研究により、地球が月を生むことになるジャイアントインパクトを経験した直後では、地球は5時間ほどで1回転していたと考えられています。)
反対に惑星の自転のほうが遅いと、コブは衛星より遅れ気味になり、今度は衛星を後ろへ引っ張ります。
公転の勢いをそがれた衛星は遠心力が弱まり、少しずつ内側へ落ちていきます。
金星の場合、1回自転するのに地球時間で243日も要することが知られており、もし衛星があったとしたら、金星へ落下する運命は免れないでしょう。
では、生まれたばかりで、今よりずっと速く回っていた金星ならどうだったのでしょうか。
この場合、衛星は最初こそ離れていきますが、徐々に変化が出てきます。
実は衛星が外へ移るための勢いは、無から湧いてくるのではなく、惑星の自転の勢いを吸い取ったものです。
そのぶん、惑星の自転にはブレーキがかかります。
このとき、最初の金星の自転速度が十分でないと、衛星が逃げ切る前に金星の自転がどんどん遅くなり、やがて衛星の公転のほうが速くなって、衛星は近づく側へ転じます。
加えて衛星の重さも重要になります。
重い衛星ほど安定して回っていられそうですが、実際は逆です。
衛星が2倍重くなると、金星にできるコブは2倍大きくなり、そのコブを引き戻す衛星の引力も2倍になります。
そのため金星の自転にかかるブレーキは4倍に強まりますが、衛星のほうは自分も2倍重いぶん動きにくく、外へ逃げる速さは2倍にとどまります。
こうして重い衛星ほど、金星の自転があっという間に衛星の公転に追い抜かれてしまうのです。
研究者たちは、この仕組みをベースに、金星と衛星の関係を計算したモデルを作成しました。
結果、初期の金星が今の486倍の速さで回り、1日が12時間だった場合、地球の月と同じ重さの衛星は45億年生き延びることが示されました。
ただし、生き延びられる条件の幅は、地球の月よりずっと狭いものでした。
太陽に近い金星では、衛星が金星の近くを回るしかなく、近い衛星ほど潮のブレーキが急激に強まるうえ、太陽の潮の力も金星の回転を遅らせるからです。
一方、1日が16時間を超えると、衛星は重さにかかわらず100万年もたたずに落ちてしまうことが示されました。
また金星がもっと速く回っていても、衛星が地球の月の2倍以上だった場合、多くの条件でおよそ3000万〜17億年のうちに速さ比べがひっくり返り、潮の力で引き裂かれる距離(ロッシュ限界)まで引きずり込まれました。
ケイン氏は「この発見をしたときは衝撃を受けました。幅広いシナリオを調べていたので、きっとさまざまな結果が出るだろうと思っていたのに、どれもほとんど同じ方向へ向かったのです」と語っています。





























