乳を吸うための部品は1億6500万年前にはできていた

哺乳類が乳を飲むための基礎部品はいつごろできたのか?
確かめる材料になったのは、中国・内モンゴル自治区の約1億6500万年前の地層から見つかった、ほぼ全身がそろった1体の化石です。
持ち主は、哺乳類そのものではなく、哺乳類へ続く道の途中で枝分かれした親戚で、すでに絶滅したグループ(ドコドン類)の新種でした。
鼻先から尾の先までおよそ50センチ、体重は1〜2キロほどと推定され、当時の哺乳類の親戚としては知られている中で最大です。
体つきはカワウソのようで、幅広く平たい尾、カモノハシに似た後ろ足、3本の根で支えられた鋭い犬歯を備えた、ちぐはぐな組み合わせの動物です。
水辺で魚やサンショウウオを捕らえていたと考えられています。
名前は「メガカウダ・スンゲイ(Megacauda sungei)」で、メガカウダは「大きな尾」を意味します。
もっとも、見つかったときの化石は、黒っぽい骨が同じく黒っぽい岩に埋もれていて、そのままでは見分けがつかない状態でした。
そこで研究チームは、物質に含まれる元素の違いを写し分けるX線の技術(蛍光X線分析)とCTを使用して調べました。
すると、口の天井の奥に、フックが喉の天井の骨とつながったまま残っていたのです。
フックの周りには、ロープにあたる筋肉を通すための隙間やくぼみまでありました。
この配置は人間を含む今の哺乳類によく見られるもので、たとえばオポッサム(おなかの袋で子を育てる有袋類)のものとそっくりです。
喉には、舌骨の一式もよく残っていました。
舌骨だけなら、2019年に同じ地域の別の種(ミクロドコドン)からも見つかっていました。
今回が違ったのは、フックと舌骨に加えて喉の天井の骨まで、この3つが1体の化石にそろっていたことです。
研究チームは、オポッサムの頭で筋肉が骨のどこに付くかを確かめ、それを手本に、メガカウダの骨から筋肉の配置を復元していきました。
浮かび上がったのは、今の哺乳類とほぼ同じ筋肉の配置でした。
フックに筋肉のロープを掛けて軟口蓋を張る、あのハンモックの形です。
論文はこれを、メガカウダが今の哺乳類と同じように乳を吸って飲み込むための体のつくりを、すでに備えていた「説得力のある証拠」だと述べています。
初期の哺乳類やその親戚で、喉の奥の筋肉の配置まで描き出されたのは、これが初めてです。
1億6500万年前はジュラ紀の半ばで、恐竜が陸の主役だった時代です。
乳を吸う喉は、そのころにはもう、今とほぼ同じ形で出来上がっていたことになります。
私たちの直接の祖先でもないメガカウダが、なぜ私たちとそっくりの喉を持っていたのでしょうか。




