植物は腐った仲間の体から「離れるように動く」と判明
植物は腐った仲間の体から「離れるように動く」と判明 / 地面に落ちて腐りかけたリンゴです。腐りかけの場所では、微生物が盛んに活動しています。 Credit: Photo by anaterate on Pixabay(Pixabay のライセンス)
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植物は腐った仲間の体から「離れるように動く」と判明 (3/3)

2026.10.22 07:30:00 Thursday

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手がかりはカビがつくる「酸」だった

目も鼻もない根は、触れてもいない腐敗の場所を、どうやって見抜いたのでしょうか。

研究チームがたどり着いた手がかりは、腐った植物にすみつく微生物が出す「酸」でした。

分解の途中で酸性の物質を出していたのは、細菌ではなくカビだったのです。

カビは、有機酸(ゆうきさん)やフェノール酸といった酸を出しながら、植物の体を分解していました。

これらの酸は周りの土へしみ出し、酸性の度合い(pH)が場所によって少しずつ違う「勾配」をつくります。

土の中で、腐った植物から酸がしみ出して広がるようすのイメージ図です。腐った植物に近いほど色が濃く、根は腐った植物に触れる前に、酸の濃い側から離れる向きへ曲がっています。
土の中で、腐った植物から酸がしみ出して広がるようすのイメージ図です。腐った植物に近いほど色が濃く、根は腐った植物に触れる前に、酸の濃い側から離れる向きへ曲がっています。Credit: ナゾロジー編集部(生成 AI で作成)(生成 AI で作成したイメージ図)

この勾配は安定して保たれるため、根にとっては向きを決める目印になりました。

この左右の差を感じとっていたのは、根の表面をおおう表皮細胞でした。

表皮細胞は、ペプチド(アミノ酸がいくつかつながった物質)と、その受け手(受容体)の組み合わせを使っていました。

この組み合わせ(RGF-RGFR)が、pHを感じとるセンサーとして働いていたのです。

センサーが感じたpHの左右差を、根は「アブシシン酸」という植物ホルモンの偏りに変えます。

腐った物に面した側に、アブシシン酸がたまっていくのです。

このホルモンの偏りが、細胞の中にある細い管状の骨組み(微小管)の並び方を組みかえます。

すると表皮細胞が特定の方向へ偏って広がり、根は決まった向きにねじれていきました。

根が腐った場所をよけるまでの流れを、順に並べた図です。左上のカビの酸から矢印をたどると、最後に根がねじれて離れるまでのつながりが分かります。
根が腐った場所をよけるまでの流れを、順に並べた図です。左上のカビの酸から矢印をたどると、最後に根がねじれて離れるまでのつながりが分かります。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

このねじれが、根を腐敗の場所から遠ざける曲がりを生んでいたのです。

このしくみは、よく知られた屈性とは様子が違います。

重力や光に応じて曲がる時、植物はオーキシンという別のホルモンを配り直して、伸びる向きを変えるからです。

チャン氏も、サプロトロピズムは「古典的なしくみには従っていない」と話しています。

研究チームは、微生物の分解がつくる化学物質の勾配が、根の進む道を指し示す合図になると結論づけました。

そして、この成果は屈性の考え方を広げるとともに、微生物と土と植物の間の、これまで知られていなかった「やりとり」の形を示すものだとしています。

落ち葉が分解され、そこから新しい植物が育っていく流れを示した写真です。分解でできた栄養は、こうして再び土へ戻っていきます。
落ち葉が分解され、そこから新しい植物が育っていく流れを示した写真です。分解でできた栄養は、こうして再び土へ戻っていきます。Credit: Cedrick May / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

ただし、まだ分かっていないことも残っています。

研究に関わっていないオハイオ・ウェスレアン大学の植物学者クリス・ウォルバートン氏は、研究の幅広さを高く評価しました。

そのうえで、信号が伝わるしくみには、詳しく解き明かすべき余地がまだ多いと指摘しています。

例えば、腐りかけの植物がどこまで分解されれば、栄養のある堆肥(たいひ)に変わるのかは分かっていません。

チャン氏らは、こうした空白を今後の研究で埋めたいとしています。

庭や畑の土の下でも、根はカビが出すかすかな酸っぱさを頼りに、腐った仲間をよけながら伸びているのかもしれません。

ここからは、屈性をもっと知りたい人へ

屈性とは、植物が光や重力などの手がかりに合わせて、伸びる向きを変える動きです

屈性は、植物が周りの手がかりに合わせて伸びる向きを変える動きで、よく知られた例では芽が光のほうへ曲がります。

ほかにも、根は重力に従って下へ、芽は上へ伸びます。また、根は水のあるほうへ曲がることもあります。

今回名付けられたサプロトロピズムも屈性の一つで、「サプロ」は「腐った」を意味するギリシア語から来ています。

根は、リンゴや葉のような柔らかいものが腐った場所を避けました。研究者の予想に反して、おがくずのような木のくずが腐った場所も避けました。

この避ける動きは、作物のナタネでも見られています。

根が腐った組織にじかにふれた場合には、病原体に関わる防御のしくみが働き出していました。

一方で、植物の体がほぼ分解しきると、酸による合図は消え、根も曲がらなくなりました。

チャン氏は、分解されていない作物の残りかすを畑に入れすぎると、根がよけきれないほど大きな腐敗の場所ができると考えています。そのうえで、腐敗をよける力を強めた品種が、これまでの病気対策を補えるかもしれないと話しています。

Q. 屈性と傾性はどう違うのですか?
A. 屈性は、刺激がやってくる方向によって決まる反応です。これに対して傾性は、刺激の方向に関係しない反応を指します。

写真で見る、光や重力に応じて曲がる植物

この研究の概要
発表
科学誌「Science」に、2026年7月に掲載されました。
研究チーム
中国の西北農林科技大学のユージョウ・チャン氏らの研究チームです。
調べた対象
シロイヌナズナやトマト、コムギの根が、腐りかけた植物のそばでどう伸びるかを調べました。
調べ方
自然の土と、仕切りのある寒天の皿の両方で、根のすぐ横に腐敗の場所をつくり、根の伸び方を観察しました。
調べ方
さらに、そこにすむ微生物や生まれる物質、根で働く遺伝子をまとめて調べ、顕微鏡での観察や遺伝子を手がかりにした絞り込みで、腐敗を感じとる細胞とセンサーを探しました。
分かったこと
根は、腐った植物に触れる前からその方向を見分け、離れるように曲がっていました。
分かったこと
目印は、カビが出す酸がつくるpHの差で、根の表皮細胞がこれを感じとり、アブシシン酸というホルモンの偏りに変えて曲がる向きを決めていました。
まだ分かっていないこと
信号が伝わるしくみには、詳しく調べるべき点がまだ多く残っています。
まだ分かっていないこと
腐りかけの植物がどこまで分解されると、栄養のある堆肥に変わるのかも分かっていません。

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