手がかりはカビがつくる「酸」だった
目も鼻もない根は、触れてもいない腐敗の場所を、どうやって見抜いたのでしょうか。
研究チームがたどり着いた手がかりは、腐った植物にすみつく微生物が出す「酸」でした。
分解の途中で酸性の物質を出していたのは、細菌ではなくカビだったのです。
カビは、有機酸(ゆうきさん)やフェノール酸といった酸を出しながら、植物の体を分解していました。
これらの酸は周りの土へしみ出し、酸性の度合い(pH)が場所によって少しずつ違う「勾配」をつくります。

この勾配は安定して保たれるため、根にとっては向きを決める目印になりました。
この左右の差を感じとっていたのは、根の表面をおおう表皮細胞でした。
表皮細胞は、ペプチド(アミノ酸がいくつかつながった物質)と、その受け手(受容体)の組み合わせを使っていました。
この組み合わせ(RGF-RGFR)が、pHを感じとるセンサーとして働いていたのです。
センサーが感じたpHの左右差を、根は「アブシシン酸」という植物ホルモンの偏りに変えます。
腐った物に面した側に、アブシシン酸がたまっていくのです。
このホルモンの偏りが、細胞の中にある細い管状の骨組み(微小管)の並び方を組みかえます。
すると表皮細胞が特定の方向へ偏って広がり、根は決まった向きにねじれていきました。

このねじれが、根を腐敗の場所から遠ざける曲がりを生んでいたのです。
このしくみは、よく知られた屈性とは様子が違います。
重力や光に応じて曲がる時、植物はオーキシンという別のホルモンを配り直して、伸びる向きを変えるからです。
チャン氏も、サプロトロピズムは「古典的なしくみには従っていない」と話しています。
研究チームは、微生物の分解がつくる化学物質の勾配が、根の進む道を指し示す合図になると結論づけました。
そして、この成果は屈性の考え方を広げるとともに、微生物と土と植物の間の、これまで知られていなかった「やりとり」の形を示すものだとしています。

ただし、まだ分かっていないことも残っています。
研究に関わっていないオハイオ・ウェスレアン大学の植物学者クリス・ウォルバートン氏は、研究の幅広さを高く評価しました。
そのうえで、信号が伝わるしくみには、詳しく解き明かすべき余地がまだ多いと指摘しています。
例えば、腐りかけの植物がどこまで分解されれば、栄養のある堆肥(たいひ)に変わるのかは分かっていません。
チャン氏らは、こうした空白を今後の研究で埋めたいとしています。
庭や畑の土の下でも、根はカビが出すかすかな酸っぱさを頼りに、腐った仲間をよけながら伸びているのかもしれません。
ここからは、屈性をもっと知りたい人へ
屈性とは、植物が光や重力などの手がかりに合わせて、伸びる向きを変える動きです
屈性は、植物が周りの手がかりに合わせて伸びる向きを変える動きで、よく知られた例では芽が光のほうへ曲がります。
ほかにも、根は重力に従って下へ、芽は上へ伸びます。また、根は水のあるほうへ曲がることもあります。
今回名付けられたサプロトロピズムも屈性の一つで、「サプロ」は「腐った」を意味するギリシア語から来ています。
根は、リンゴや葉のような柔らかいものが腐った場所を避けました。研究者の予想に反して、おがくずのような木のくずが腐った場所も避けました。
この避ける動きは、作物のナタネでも見られています。
根が腐った組織にじかにふれた場合には、病原体に関わる防御のしくみが働き出していました。
一方で、植物の体がほぼ分解しきると、酸による合図は消え、根も曲がらなくなりました。
チャン氏は、分解されていない作物の残りかすを畑に入れすぎると、根がよけきれないほど大きな腐敗の場所ができると考えています。そのうえで、腐敗をよける力を強めた品種が、これまでの病気対策を補えるかもしれないと話しています。




