人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説
人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説 / Credit:Canva
biology

人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説

2026.10.20 11:00:19 Tuesday

ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所(MPI-EVA)などで行われた研究により、人類のずば抜けた持久力が、走って獲物を追うより先に、浅い水に潜って食べ物を採る暮らしの中で育ったとする新説を発表しました。

潜っては息をつぐ暮らしが何世代も続くうちに、酸素を取り込んで全身へ運ぶ心臓と肺の力に優れた体が広がっていったという筋書きです。

祖先が潜っていた手がかりの1つは、約200万年前の人類の一部が持っていた、ずっしりと重い骨です。

走るには重荷になるこの骨が、浅い水の中では、息を吸って浮き上がる体を押さえる天然のおもりになるというのです。

研究者たちは論文の結論で、人類の持久力の起源を調べるなら「持久走だけでなく、持久潜水も考えに入れることが欠かせない」と述べています。

研究内容の詳細は2026年9月17日に『PaleoAnthropology』にて発表されました。

Endurance running or endurance diving – which came first? https://www.eva.mpg.de/press/news/article/endurance-running-or-endurance-diving-which-came-first/
Dive First, Run Later? The Role of Endurance Diving in Human Evolution https://paleoanthropology.org/ojs/index.php/paleo/libraryFiles/downloadPublic/57

人間は陸の生き物なのに、なぜこれほど潜れるのか

人間は陸の生き物なのに、なぜこれほど潜れるのか
人間は陸の生き物なのに、なぜこれほど潜れるのか / Credit:川勝康弘

マラソン大会では、着ぐるみ姿の市民ランナーまでが42.195キロを走り切って、次々とゴールに帰ってきます。

見慣れた光景ですが、動物として見ると、これはかなりの芸当です。

人間の体には、ほかの類人猿にはまねできない得意技がいくつかあり、なかでも有名なのが、投げること、汗をかくこと、長く走ることの3つです。

チンパンジーは人間より力持ちなのに、ボールを時速30キロほどでしか投げられません。

人間のプロ野球の投手なら、時速150キロ前後の球を投げ込みます。

汗をかく力も桁外れで、人間の皮膚には汗を出す小さな腺(エクリン汗腺)が200万〜400万個も並んでいます。

汗で体を冷やしながら走れるおかげで、長い距離なら人間はウマとも張り合えます。

実際、ウマとランナーが約35キロの山道を競うイギリス・ウェールズのレースでは、人間がウマを破って優勝した年さえあるのです。

ウマと張り合えるほどですから、人間はまさに「持久力おばけ」です。

この力は、約300万〜200万年前に乾燥が進んだアフリカで、獲物が暑さでへばるまで走って追い詰める「持久狩り」のために進化した、と長らく説明されてきました。

ところが、人間の持久力おばけぶりは、陸の上だけでは終わりません。

人間は、息を止めて水に潜ることも、ほかの霊長類とは比べものにならないほど得意なのです。

水中でじっと息を止める競技の世界記録は、11分35秒に達しています。

足ひれを使わずに、ひと息で水深103メートルまで潜って戻ってきた記録もあります。

いずれも、これまでに調べられたほかのどの陸の哺乳類の能力もはるかに超えています。

潜るのは、記録を狙う選手だけではありません。

日本の海女や、東南アジアの海で暮らすバジャウの人々は、素潜りで魚や貝を採ることを毎日の仕事にしています。

世界の53の狩猟採集社会を比べた研究では、走ることはすべての社会で見られましたが、獲物を走って追い詰める猟が記録されていたのは17の社会にとどまりました。

それに対して、潜る習慣は23の社会に、泳ぐ習慣にいたっては45の社会にありました。

人間は陸の生き物なのに、なぜこんなに潜水が得意なのでしょうか?

この疑問に新しい答えを示したのが、マックス・プランク進化人類学研究所のジョセフィン・ヨールデンス氏と、中部スウェーデン大学のエリカ・シャガタイ氏です。

シャガタイ氏は自身も素潜りのダイバーで、海女やバジャウの人々の潜りを数十年にわたって調べてきました。

2人が唱えるのは「まず潜り、のちに走る(dive first, run later)」という説です。

この説では約300万〜200万年前、水辺に暮らす人類の一部が、浅い水に潜って食べ物を採るようになります。

こうした暮らしが何世代も続くうちに、酸素をたっぷり取り込み、全身へ運ぶ心臓と肺の力に優れた体が広がっていき、この力を受け継いだまま骨が軽くなった人類が、陸で長く走ることに使い回したというのです。

確かに魅力的な説ですが、それを支える証拠はあるのでしょうか?

次ページ食べ物を採る素潜りは、長距離走と同じ力で支えられている

<

1

2

3

4

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!