人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説
人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説 / Credit:Canva
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人類の持久力は「水に潜る暮らし」で育った可能性がある――持久力の起源に新仮説 (3/4)

2026.10.20 11:00:19 Tuesday

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走るには重荷になる祖先の骨が、浅い水では天然のおもりになる

走るには重荷になる祖先の骨が、浅い水では天然のおもりになる
走るには重荷になる祖先の骨が、浅い水では天然のおもりになる / Credit:川勝康弘

祖先の化石のどこに、潜っていた跡が残っているのか?

研究者たちが真っ先に挙げるのは、骨の重さです。

化石を調べると、約300万年前より後の人類の一部は、手足の骨がずっしりと重かったことがわかります。

ホモ・エレクトスの化石10体では、太ももの骨の断面のうち、硬い外側の骨(皮質骨)が71〜89%を占め、ここ1万年あまりの人類の62〜82%より全体に高めでした。

スペインのシマ・デ・ロス・ウエソス遺跡で見つかった約40万年前の人類の骨格は、同じ体格の現代人より約36%も重かったと見積もられています。

ふつうの人の骨格を10キロとすると、彼らは3.6キロの荷物をいつも余計に背負っていたことになります。

走る動物にとって、これは大きな損です。

走るのが得意な中型の哺乳類は、走るのが苦手な仲間より体が軽いからです。

ヨールデンス氏らは、重い骨格が走るために進化したとは考えにくいと指摘します。

骨の重いホモ・エレクトスがいたことは、持久狩り説を見直す強い理由になりうるというのです。

ところが水の中では、この重さが一転して役に立ちます。

息をたっぷり吸った体は、浮き輪を抱えたように浮いてしまうからです。

いまの素潜りダイバーがよく2〜4キロの鉛のおもりを腰に付けるのは、そのためです。

骨が重ければ、肺を空気で満たしたままでも、浅いところで浮きも沈みもしない状態をつくれます。

重い骨は、天然のおもりになるのです。

ほかの哺乳類の骨にも、この理屈がそのまま表れています。

深く潜る動物ほど骨が重そうに思えますが、実際は逆です。

48属の哺乳類を比べた研究では、浅く潜る動物の手足の骨は、陸の動物よりも、深く潜る動物よりも密度が高くなっていました。

浅く潜って骨が重い動物には、カワウソやビーバー、カピバラ、ジュゴン、ホッキョクグマなどがいます。

一方、深く潜るクジラやアザラシの一部は、軽いつくりの骨を持っています。

深く潜れば水圧で肺が縮み、体が勝手に沈んでいくので、重い骨というおもりはいらないのです。

ヨールデンス氏らは、人類の重い骨も、浅く潜る動物と同じ理由で生まれたのではないかと考えています。

骨の重さのほかにも、化石には潜りと結びつきそうな特徴が残っています。

約150万年前に生きたホモ・エレクトスの少年「トゥルカナ・ボーイ」の肋骨を組み直すと、胸は幅が広く、前後にも厚いつくりでした。

すらりとした長距離ランナーではなく、がっしりしたネアンデルタール人に近い体つきだったのです。

ホモ・エレクトスの胸は下のほうがふくらんだ釣鐘型で、大きな横隔膜を収めていたとみられています。

ヨールデンス氏らは、この胸のつくりに、潜るときに役立つ2つの特徴があると考えています。

空気をたくさんためられる大きな肺と、水圧で肺が押し縮められても傷まない胸の柔らかさです。

鼻も水に潜る暮らしに適応したのかもしれない
鼻も水に潜る暮らしに適応したのかもしれない / Credit:川勝康弘

鼻の形も、潜りに向いているといいます。

前に突き出た鼻と下向きの鼻の穴は、約200万年前のホモ・エレクトスで現れたとみられています。

チンパンジーの鼻の穴が前を向いているのに対して、人類の鼻の穴は下を向いていて、中に空気がたまります。

この空気が、浅く潜ったときに水が入り込むのを防ぐ栓になります。

泳いで潜るテングザルやカニクイザルも、鼻の穴が下を向いています。

一方でこの鼻は空気の通り道を長く曲げるので、鼻で息をしながら走るにはむしろ不利です。

2人は、潜るたびに鼻に水が入らないようにする必要から、水面では口で息をつぐ習慣が始まり、それがのちに走るときにも生かされたのではないかと推測しています。

研究者たちは、骨の重さや胸、鼻も含めて、潜りとの関係を化石で調べられる特徴を10個挙げています。

耳抜きをしやすい口と舌のつくりや、酸素が減っても脳へ血を送りやすい太い動脈の通り道(頸動脈孔)、水中でも姿勢を保ちやすい大きな三半規管も、その10個に含まれます。

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Credit:川勝康弘

約300万〜200万年前には、遺伝子にも変化が起きていました。

人類の系統で、CMAHという遺伝子が働かなくなったのです。

CMAHは、細胞の表面を覆う糖(シアル酸)を作り分ける遺伝子です。

これが壊れたため、人間の細胞が自分で作れるシアル酸は、ほかの類人猿の2種類に対して1種類(Neu5Ac)だけになりました。

人間と同じようにこの遺伝子を壊したマウスは、筋肉に酸素が届きやすくなり、長く走れるようになります。

そのため、CMAHが働かなくなったことは、持久走の進化を支えた変化として注目されてきました。

しかしヨールデンス氏らは、筋肉に酸素がよく届くことは、息を止めて潜る動物にも大いに役立つはずだと指摘します。

そのため、この変化はまず潜るために生かされたのではないかと考えています。

実際、同じ遺伝子が働いていない哺乳類には、アザラシやカワウソの仲間、セイウチ、カモノハシといった、潜水の名手が並んでいます。

ただし、ホモ・エレクトスでこの遺伝子がすでに壊れていたかどうかはまだわかっておらず、化石から確かめる研究が進められています。

では、人類の祖先は本当に水に入っていたのでしょうか?

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