約9900万年前の琥珀に、しっぽを外したときの筋肉の形が残っていた

筋肉の形を残したしっぽは、どこなら見つかるのか?
その数少ない場所の一つが琥珀です。
琥珀は、木の幹からしみ出した樹脂が、地中で長い年月をかけて固まった化石です。
樹脂はもともと、木が傷口をふさぎ、虫や菌から身を守るために出す、ねばねばの液です。
生き物がこの樹脂に包まれると、まわりの空気や水からさえぎられます。
樹脂には、微生物が増えるのを抑える成分も含まれています。
こうして、うろこの一枚一枚から、ふつうなら真っ先に腐ってしまう筋肉の形まで、立体のまま閉じ込められるのです。
ただし、トカゲほどの大きさになると、樹脂につかまっても抜け出せることが多く、琥珀に残るのは小さな虫などが中心です。
それでも、ミャンマー北部で採れる約9900万年前(白亜紀、恐竜の時代)の琥珀からは、ヤモリなどのトカゲや、生まれたばかりのヘビまで見つかってきました。
研究チームの引き出しにも、この琥珀が一つ眠っていました。

2022年に業者から買ったもので、中にある長さ8ミリほどの物体は、小枝か虫のかけらだろうと思われていました。
ところが、筆頭著者で博士課程の学生のドレヴ・ファブリカント氏がよく見ると、表面にうろこが並んでいたのです。
それはトカゲのしっぽでした。
琥珀はにごっていて、顕微鏡では中までよく見えません。
そこでチームは、X線で中を輪切りのように撮影し、立体に組み立て直す装置(マイクロCT)で、しっぽの姿を浮かび上がらせました。
注目したのは、体から外れた側の端、つまり切り口です。
切り口はしっぽの向きに対してほぼ直角で、左右の形もそろっていました。
ちぎれたときにできるささくれやねじれ、押しつぶされた跡、うろこが一方向に裂けた跡も、切り口のどこにもありません。
そして切り口のまわりを、とがった筋肉の束が、花びらのように輪になって取り囲んでいたのです。
トカゲが自分の筋肉を使ってしっぽを外したときにだけできる、あの形でした。
いまのスキンクやカベカナヘビが切り落としたしっぽの標本と並べてみると、9900万年前の切り口はそれらとよく一致しました。

実はこのしっぽで残っていたのは、切り口を含む表面の形でした。
内側は鉱物に変わっていて、骨の形やミシン目は見分けられませんでした。
自分で切った証拠は、骨ではなく、ふつうなら消えてしまう筋肉の形と、整った切り口で示されたのです。
琥珀は、その日に起きたことの手がかりも残していました。
しっぽのおなか側が、先に流れて乾きかけていた樹脂の表面にぴったり貼りつき、その面の形どおりに平たくなっていたのです。
これは、しっぽが切れた直後の、まだやわらかいうちに樹脂に捕らえられたことを示しています。
その上を新しい樹脂が流れて覆い、しっぽを9900万年後まで閉じ込めました。
研究チームが最も単純な筋書きとして挙げるのは、木の上で暮らすトカゲが樹脂につかまり、しっぽを切って逃げ出したというものです。
本体は抜け出し、置き去りにされたしっぽだけが琥珀の中に残ったというわけです。
もう一つの筋書きは、捕食者に捕まったトカゲがしっぽを切って逃げ、捕食者がそのしっぽを樹脂の上に落としたというものです。
実際、しっぽの中ほどには、二つにちぎれかけるほどの傷もあります。
これは自切とは別のもので、敵にかみつかれたか、樹脂に貼りついたあとで何かにかじられた跡とみられています。
今回の研究により「実際に自分で切った」跡が残っていたしっぽがみつかりました。
この発見は、琥珀が生き物の形だけでなく、身を守る一瞬の行動まで閉じ込めうることも示しました。
また、いまのトカゲでは、しっぽを切る仕組みと生やし直す仕組みが、もともと一組になってできていることが多いのです。
そのため研究チームは、この化石が、しっぽを生やし直す遺伝子がいつ生まれたのかをたどる手がかりにもなるとみています。
公園の石垣で見かけるトカゲのしっぽ切りは、恐竜が歩いていた9900万年前の森でも、すでに命をつなぐ技として使われていたのです。






図が見にくい
しっぽの琥珀、なんかかわいい