その他の人類の祖先の遺跡「耳の筋肉」「鳥肌」
別の例は、耳をぴくぴく動かす技にも見ることができます。ウサギやネコといった夜行性の動物は、音の出る場所を特定するために、耳を動かして集音範囲を広げるという特性がありますが、人類の祖先も数千年前は、耳の付け根にある3つの筋肉(前耳介筋、上耳介筋、後耳介筋)を動かして広範囲の音を聞き取っていました。大昔は生きるために必要不可欠だったこの技能ですが、現在では飲み会で披露するネタくらいにしかなりません。
とはいえ、かつて使われていた機能のすべてが、人体から完全に失われたわけではありません。今でも、耳の付け根の筋肉が音に反応することが複数の研究で明らかになっています。耳を動かすほどの強さではないものの、耳が一番効率良く聴こえるように反応しているようなのです。
また、寒い時に立つ鳥肌は、毛穴に隣接した立毛筋が収縮し、体毛が立ち上がることで生じます。体毛がピンと立つことで皮膚表面に突起ができ、日光に当たる表面積が増えて体を温めることができるのです。冬の朝によく目にするふくら雀などはまさにこの例です。これはアドレナリンの働きで生じる現象ですが、このホルモンは寒さだけでなく、敵意や恐怖にも反応してつくられます。体毛を立ち上げることで、敵に対して自分の体を大きく見せ、自分を守ろうとする防衛反応です。こうした「体を温める・体を大きく見せる」という本来の機能が転じて、人間は驚いた時や感動した時にも鳥肌が立つようになったようです。
この他にも、親知らず、尾てい骨、赤ちゃんが手足で物を強く握る力など、私たちの体は遠い昔の祖先が持っていた能力を示す「遺跡」にあふれています。もし次に鳥肌が立った時は、遠い祖先に想いを馳せるチャンスかもしれません。