
■先天的、または生後初期の段階で盲目であることが、統合失調症などの精神疾患を防ぐ保護因子の役割を果たす
■皮質盲の人において統合失調症が報告されたケースが一例も無かった
■早期に視覚を失うことで、音声認識、聴覚注意、記憶、言語、主観的体験の構築など、脳の他の機能が強化
まるで『バードボックス』の世界…?
瞳の動き、まばたきの回数、網膜の異常といった視覚に関する障害は、統合失調症を患っている人により多く見られるため、かつてはこうした視覚障害が統合失調症を引き起こす可能性が指摘されてきました。
ところが1950年代以降、生まれつき、または生後初期の段階で盲目の人は、そうでない人よりも統合失調症などの精神疾患の罹患率がむしろ低いことを示す、真逆の説が登場。盲目であることが、統合失調症を防ぐ保護因子の役割を果たしていることが明らかになってきました。
最近、このことを証明する初めての大規模集団調査が、西オーストラリア大学のヴェラ・モーガン氏らによって行われました。中でも、皮質盲の人において統合失調症が報告されたケースが「一例も」無かったことが、注目を集めています。論文は、雑誌「Schizophrenia Research」に掲載されました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0920996418304055
盲目であることが統合失調症のリスクを消す
もちろん、症例の欠如は、それが完全に存在しないことの証明にはなりませんが、症例が一つも無いとは衝撃的です。モーガン氏は、盲目であることが、統合失調症の進行リスクを減らすばかりか、消すことさえあると説明しています。
モーガン氏らは、西オーストラリアの州規模で実施された、先天性および6歳時点までに現れる、視覚器や視路の損傷により生じる盲目、または後頭葉の損傷により生じる皮質盲の人々における、統合失調症の罹患率に関する調査のデータを使用しました。前者は遺伝だけでなく、脳卒中などによっても生じることがあり、後者には緑内障や先天的な水晶体の変形によって起きることがあります。
14〜35歳の調査対象者50万名近くのうち9,120名が、何らかの精神疾患を患っており、そのうち1,870名が統合失調症でした。これは、この年代における統合失調率の罹患率0.5パーセントとほぼ一致しています。
視覚器などの周辺器官の障害で視覚を持たない人は613名、皮質盲の人は66名でした。前者のうち、精神疾患を持つ人は8名、そのうち統合失調症を発症している人はわずか2〜3名でした。つまり、統合失調症の罹患率は0.2パーセントと、通常よりを下回ります。そして後者に至っては、精神疾患を持つ人が1人もいなかったのです。
モーガン氏らは、生後早い時期に盲目であること、とりわけ皮脂盲であることが、精神疾患のリスクを下げると説明しています。