かつてない宇宙映画が誕生しました。今までの宇宙映画を「見守り型」とすると、本作は完全なる「ライド型」といえるでしょう。
2月8日から日本公開が始まった映画『ファースト・マン』、監督は『セッション』『ラ・ラ・ランド』など新作発表のたびに話題を呼ぶ若き天才、デイミアン・チャゼル氏です。
物語の主人公ニール・アームストロングは、人類初の月面着陸を成功させた人物として世界中に知られています。しかし意外にも、アームストロングを主人公に据えた作品は今回が初めて。映画化が難航した裏には、アームストロング自身の人となりが関係していたのです。
いくつもの要因が相まってスペシャルな存在となった本作ですが、こうした映像のマジックの正体は一体何なのでしょうか?
冒頭で語られる最愛の娘の死。ニール・アームストロングは、悲しみを振り払うかのように、NASAの「ジェミニ計画」に志願する。過酷なミッションの中で命を落としていく仲間たち。続くミッションの失敗に国民からのバッシングは高まるばかり。さらに、愛する娘の影に苛まれるニール。そして、彼は、人類がいまだ成し得ていない「月面着陸」へと挑むことになるのだが…。
なぜ今まで映画化されなかったのか?
世界中の誰もが知る人類の偉業が、これまで映画化されなかったのにはワケがあります。それは、ニール・アームストロング本人の人柄が原因でした。
彼は、残した偉大な功績とは裏腹にその性格は控えめで謙虚、目立つことを嫌い、感情を表に出さない秘密主義な人物だったのです。
こうした人物をドラマチックに描くのは至難の業です。さらに、自分だけにスポットが当たることを嫌うニールが、映画化の話を拒み続けたのは自然の流れでしょう。本人から承諾を得られたのは、ニールが晩年になってからのことでした。
それでもニールの冷静さは、危険なミッションをやり遂げるに当たって一番重要な資質だったことも確かです。
ただ、いつも冷静で無表情な人物だと、観ている側はどうしても感情移入しづらいもの。そこでチャゼル監督は、アームストロング役のライアン・ゴズリングにカメラをベッタリと近づけて撮影する手法を採りました。
まるで守護霊のごとくニール・アームストロングに”取り憑く”ことで、観客は否が応でも彼を肌で感じることになるのです。「絶対感情移入させる」という監督の強い意志を感じます。