
Point
■ヒトの死亡原因の多くを占める心臓病は、人類の進化の過程で「CMAH遺伝子」を失っていたことが原因だった
■CMAH遺伝子を欠如させたマウスは、人に観察される「アテローム性動脈硬化症」による心臓発作の発症率が上昇した
■一方CMAH遺伝子が欠如しているおかげで、人類は長距離走行が得意になった
心臓発作は人間によく見られる疾患です。
しかし人類と遺伝子的に近縁関係にあるはずのチンパンジーでは、心臓発作は非常にまれな病気なのです。
長年の間、なぜ人にだけ心臓病がよく見られるのかわかっていませんでしたが、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究によると、およそ200万〜300万年前に人類の祖先が進化上、ある遺伝子を失っていたことが原因だと判明しました。
その遺伝子が「CMAH」です。
マウスを用いた実験で、ヒトと同じようにCMAH遺伝子を欠如させてみたところ、人類に多くみられる心臓病の発症率が急激に高くなったとのこと。
研究の詳細は、7月22日付けで「PNAS」に掲載されました。
https://www.pnas.org/content/early/2019/07/18/1902902116
何かを得るには何かを失う必要がある
心臓疾患は人類の死亡原因の多くを占める病気として有名です。2016年には全世界でおよそ1790万人が心臓疾患により死亡しており、これは全死亡件数の実に31%に当たります。
さらにその内の85%は「アテローム性動脈硬化症」による心臓発作でした。
研究主任のアジート・バーキ教授は、ヒトに特有のアテローム性動脈硬化症の発症原因について調査を実施。その結果、血液中のコレステロール濃度や座りっぱなしの生活習慣、高齢、肥満、喫煙などが挙げられた一方で、それらとは関係しない因子が発見されたのです。

それがCMAH遺伝子の欠如でした。この遺伝子は「Neu5Gc」と呼ばれるシアル酸糖分子を作り出す機能を持っています。
CMAH遺伝子を欠如させたマウスと遺伝子操作をしていないマウスを比較してみると、明らかに前者の方がアテローム性動脈硬化症の発症率が高くなっていたのです。
この結果から、CMAH遺伝子が進化の過程で何らかの原因により不活性化したことで、人類の心臓病発症リスクが高まったことが予想されます。
しかしCMAH遺伝子が欠如していることは何も悪いことばかりではありません。例えば、人類が長距離走行に長けているのはCMAH遺伝子の欠如のおかげだとバーキ教授は説明します。
「一つ得るには一つ失わなければならない」。人生においても生物進化においても、共通する法則なのかもしれません。