事前のエネルギー投資も充電も一切不要
この新技術の仕組みは、以下のようなものです。
まず初めに電極からナトリウムと塩化物イオンを溶剤の中へ放出することで、一方の電極からもう一方の電極への電流の向きを生みます。すると、廃水と海水が急速に交換することで、ナトリウムと塩化物イオンを再び取り込まれ、電流の向きが切り替わります。
淡水と海水が流れる間に使用されたエネルギーは再び取り戻されるため、事前のエネルギー投資も充電も必要ありません。つまり、エネルギーの消費と再充電が継続的に行われるため、新たなエネルギーのインプットが一切不要なのです。
生産されるエネルギーは、海水に混じる淡水1立方メートルにつき、0.65キロワット時。これは、米国の平均的な家庭で30分間に使用される電力に相当します。
理論上は、世界中の沿岸地域の廃水処理工場から約18ギガワット、つまり、1,700世帯で1年間に必要とされる電力に相当する再生エネルギーを生産できる計算になります。
電極の材料は、顔料や薬品として広く使用されている紺青と呼ばれる物質と、電池などの装置に実験的に使用されているポリピロールという物質。紺青は1キロあたり1ドル未満、ポリピロールは1キロあたり3ドル未満と、かなり安価です。
しかも、これらの材料は比較的丈夫なため、補強用の電池も不要という都合の良さ。ポリビニル・アルコールとスルホコハク酸のコーティングが電極の腐敗を防いでくれる上に、動く部品も不要です。
実は、今回開発された電池はブルーエネルギーの獲得に初めて成功した技術というわけではありません。ですが、圧力や膜組織を使わずに、電気化学を利用した技術としては世界初です。
エネルギー消費が少ないこと、簡潔であること、継続的なエネルギー生産が可能なこと、充電や電圧を制御する膜組織や装置が不要であることから、この技術の大規模化は従来の構想よりも実現可能性が高いと見られています。
研究チームの1人であるクリスチャン・ドゥブラウスキ氏は、この新技術を「複雑な問題に対する科学的に洗練された解決策」だと説明しています。まずは大規模化実験による効果の証明が先決とはいえ、ブルーエネルギーの活用へ向けた大きな第一歩が踏み出されました。
日本の海洋面積は、排他的経済水域を含めると世界第6位の広さを誇ります。日本に眠るブルーエネルギーを考えると、非常に期待できる技術ですね。