ご長寿の星
鉄が極端に少ない星は、宇宙で一回目の超新星爆発で飛び散った元素しか含んでいないためと考えられます。
このときには、宇宙はある程度膨張していて、物質の密度は下がっていたため、太陽よりも軽い恒星というものも生まれていたと考えられます。
太陽より50%近く質量が少ない星は、赤色矮星という非常に核融合の遅い星になります。星は核融合で燃え続ける限りは生き続けることができるので、こうした星は非常に長命です。赤色矮星は理論上寿命が数兆年続くと考えられています。
このため、宇宙初期の星であっても、未だに生き残っている星がいるのです。
ただ、今回の星は赤色巨星の段階に入っていると言われています。赤色巨星は中心核で水素を使った核融合が完了し、外周部が膨張している寿命間近な星のことです。
『SMSS J 160540.18–144323.1』は数兆年生きるほど軽い星ではなかったようで、そろそろ人生の最終局面を迎えようとしています。
とは言っても、私達人類にとっては、彼が死ぬのはまだまだ先の話でしょう。
この星を詳しく調べることで、今はもう存在しない第1世代の星の秘密についても、迫ることができるのではないかと期待されています。
この宇宙の長老から、初期宇宙の様子を聞き出すことは骨の折れる作業となるでしょうが、天文学者たちは根気強くこの長老の昔話に耳を傾けることになりそうです。