Point
■初期宇宙の成長過程をシミュレーションする「宇宙マシン」により、宇宙形成の過程が検証された
■これまでの予想では、暗黒物質やブラックホールがガスを加熱し、徐々に星形成を阻害したと考えられていた
■シミュレーションの結果は、この予想に反して熱量によって星の形成が抑制されないことを示しており、これまでのモデルを考え直す必要を示している
現在宇宙には何10億という数の銀河が存在しています。
しかし、これらが実際どのように形成されて成長していくのかについては多くの謎が残されています。
そこで登場したのが「「宇宙マシン(UniverseMachine)」です。
このマシンは強力なスーパーコンピューターを用いて、何100万もの宇宙を同時に成長させ、条件の違いによって宇宙の進化にどのような違いが生まれるかをシミュレーションするという一見SFのような代物。
観測と推論から、宇宙の進化過程の多くを学ぶことは可能ですが、こうして生まれた理論には多くの飛躍が生じます。コンピューターシミュレーションは、そんなギャップを埋める際に有効な検証方法となるのです。
通常のコンピューターシミュレーションは、比較的短い時間スケールに対して行われます。しかし、今回研究者たちは、ビッグバンから4億年後の宇宙から、現在の宇宙までのほぼ全てをシミュレーションするという壮大な実験を実行しました。
そしてこのシミュレーションの結果、もっとも私達の知る宇宙に近い状態へ進化した仮想宇宙は、困ったことに従来の理論とは異なる条件を入力した場合のものだったのです。これは従来の宇宙進化のモデルに何らかの誤りがある可能性を示唆しています。
この研究は、アリゾナ大学の天文学者を始めとした研究チームにより発見され、『王立天文学会月報』に掲載されています。
https://academic.oup.com/mnras/article/488/3/3143/5484868
赤く輝く宇宙
宇宙に輝く星々は、星雲のような宇宙を漂うガスが、高密度に集まって生まれていると考えられています。
一般的に、ガスが高温になるほど星が形成がされにくくなります。ガスが自重で潰れて星形成を行うためには、ガスが冷却される必要があるのです。
温度とは、物質の持つ運動エネルギーの高さを示すものです。ガスが熱いということは、それだけそれぞれの粒子が活発に動き回っているということであり、当然一箇所に固まって星を生み出すには不利な条件になります。
これを示す証拠は、レッドガイザーと呼ばれる、星形成の停止した赤い銀河から得られます。
レッドガイザーは、若く青い星がなく、老いた赤い星ばかりの死んだ銀河です。これは、中心の超大質量ブラックホールが活性化して、周囲を取り巻く物質を加熱させており、星形成が妨げられることで形成されるといわれています。
こうしたガスに高い熱量を与える存在は、活性化したブラックホールの他に、超新星爆発や初期宇宙には多く存在したと考えられる高密度の暗黒物質も候補として考えられています。
この条件をシミュレーションに組み込んで、宇宙を進化させた場合、多くの銀河はかなり早い時期に星形成を停止してしまいました。その結果誕生した宇宙は、赤い銀河ばかりになり、現代の私達が見慣れた宇宙とはまるで違った姿になってしまったのです。
そこで研究者たちは、熱量の影響により星形成が停止するというルールを弱めて、いつまでも銀河の星形成が停止しないというモデルの仮想宇宙でシミュレーションを行いました。すると、その宇宙は、私達の見慣れた宇宙に非常に近い状態へと成長したのです。
「初期の銀河は、我々の想定よりずっと効率的に星を形成していたと考えざるを得ない」と研究者は述べています。
このことからわかるのは、超大質量のブラックホールや、超新星爆発によって生み出される熱量が、従来の理論が想定するよりもずっと、星形成を抑制する効果が低いということです。
これはレッドガイザーのような死んだ銀河が、なぜ星形成を停止してしまうのかについて、一旦理論を白紙に戻して考え直す必要があるかもしれません。
宇宙には、まだまだ私達が見落としている重要な何かが潜んでいるようです。
現在のところシミュレーションでは、宇宙の進化に必要とされる条件が、どの様な要因でもたらされるのかまでは示してくれません。
彼らは宇宙マシンをさらに拡張して、個々の銀河がどう進化していくかを含めたシミュレーションを行う計画を進めています。
しかしこれより先は、観測による新しい事実の発見を待つことになるのかもしれませんね。