Point
■夢で見た内容が、起きると失われるメカニズムについて、名古屋大学の研究者らが明らかにした
■マウスを用いた実験により、脳内視床下部にレム睡眠中に活動し、記憶消去を行う神経が発見された
■記憶に影響を与えるこのメカニズムは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に転用可能と考えられ、医療分野への貢献が期待されている
すごく良い夢だったのに、起きたら思い出せない…。そんな経験は誰しもあるでしょう。
どうして夢で見た内容はすぐ忘れてしまうのでしょうか。この誰もが一度は考える疑問について、ついにそのメカニズムを解明したという研究が発表されました。
研究によると、レム睡眠中、脳内では記憶を消去する神経が活動しているというのです。
この研究論文は、名古屋大学、環境医学研究所の山中章弘教授らの研究グループにより発表され、2019年9月19日に米国科学誌「Science」オンライン版に掲載されています。
https://doi.org/10.1126/science.aax9238
海馬に影響しているMCH神経
人間は睡眠中に、記憶の定着や消去が行われていると考えられていますが、その仕組みはよく分かっていませんでした。
私達が夢を見るのは、身体が眠っていても脳は活動しているレム睡眠中です。しかしこの夢の記憶は起きた後には大抵残っていません。微かに覚えていることもありますが、中には自分は夢を見ないと言い張る人もいるくらいで、夢の記憶はほぼ完全に消去されてしまっています。
こうした記憶に影響を与える神経の存在について、今回の研究チームはメラニン凝集ホルモン神経(MCH神経)に着目しました。
MCH神経は視床下部に存在し、主に食欲調整などに関わっている神経です。この神経の活動を人工的に活性化させると、ノンレム睡眠がレム睡眠に切り替わり、レム睡眠の時間が増加することが報告されています。
さらにこのMCH神経は、活性化すると海馬の活動を抑制していることが明らかになったのです。
またMCH神経は覚醒時、レム睡眠時、あるいはその両方で活動する3種類の細胞があることが確認されました。
今回の研究では、この3種のMCH神経を意図的に活性化または抑制させることで、どう記憶への影響するかが調査されました。
神経の活動を人工的に操るには、光遺伝学という手法が用いられます。これは特定の波長の光を当てることで神経を意図的に活性化させるという手法です。
光遺伝学の詳しい内容については、以前に「マウスに見えないはずのものを見せる」という次世代VR技術のような研究記事にて触れているので、気になる方はそちらを参照してください。