Point
■運動障害を持つ人々がワイヤレスに車椅子などを操作できる超薄型の皮膜状電極が開発された
■この電極は、フレキシブルエレクトロニクスとディープラーニングのアルゴリズムを組み合わせたもの
■従来型のウェアラブル電極と比較して、利便性、快適性、データ速度が向上した
超薄型の皮膜状電極「フレキシブルエレクトロニクス」とディープラーニングのアルゴリズムを組み合わせることで、障害者による車椅子、コンピュータ、自動車のワイヤレス操作を可能にする新技術が開発されました。
このブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は、完全に持ち運び可能かつワイヤレスです。視覚誘発電位からの信号を脳内で測定することで、従来型の脳波記録(EEG)の弱点を改善しているとのこと。
米ジョージア工科大学、英ケント大学、米ウィチタ州立大学の研究チームによる論文が、雑誌「Nature Machine Intelligence」に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s42256-019-0091-7
ディープラーニングモデルが画像と同じようにEEG信号を分類
この研究の最大のポイントは、ごく薄い皮膚のようなシステムの中に、高解像度EEG監視システム・回路を完全に集約できたことです。
このBMIは、筋萎縮性側索硬化症、慢性期脳卒中、その他の重度運動障害を患う人々の人工装具操作を助けるリハビリ技術において重要な役割を担っています。
これまで定常視覚誘発電位(SSVEP)と呼ばれる神経信号を収集するには、電極付きヘアキャップを被り、濡らした電極、接着剤、ワイヤーを使ってそれをコンピュータ装置に繋ぐことで、信号を読み取る必要がありました。
そこで今回研究チームは、最新の柔軟かつワイヤレスのセンサーと電子装置を使い、これらを皮膚に直接装着することに成功したのです。
また、SSVEP信号の探知と分析も課題の1つでした。SSVEPの信号振幅は数十マイクロボルトと、体内の電子ノイズに相当するほど低いからです。さらに、脳の個体差にどう対応するかも悩みの種でした。
研究チームはこれらの問題に取り組むため、「柔軟性に富み、かつ毛髪に装着可能な、毛髪を通して頭皮に直接接続する電極」、「超薄型の皮膜状電極」、そして「Bluetooth遠隔測定装置を組み込んだ折り曲げ可能な回路」という3つの要素から成るシステムを開発しました。
脳から記録されたEEGデータは回路内で処理され、Bluetoothを通して半径15メートル範囲に置かれたタブレット端末に送信されます。
また、フレキシブルエレクトロニクスに用いられるディープラーニング神経ネットワークのアルゴリズムに着目し、犬や猫といった身の回りにあるものの画像の分類に用いられるディープラーニングをEEG信号の分析に用いることにしました。
加えて、研究チームは、ディープラーニングモデルを用いて、EEG信号を分類するための情報収集にもっとも有益な電極を特定することにも成功。これにより、必要なセンサーの数を減らし、コスト削減と携帯性の向上に繋げることができたのです。