特異なタンパク質Dsupが「保護用の雲」を形成
これまでの研究で、クマムシだけが持つDsup (Damage suppression protein) と呼ばれる特異なタンパク質の存在がすでに特定されていました。Dsupをヒトの細胞に加えると、細胞がX線から保護されることも分かっています。ですが、Dsupが一体どうやってこの特性を発揮しているのかは明らかになっていませんでした。
そこで研究チームは、さまざまな生化学の技術を用いて、極限環境におけるクマムシの生存能力の背景にあるDsupのメカニズムを調べることにしました。
調査の結果、研究チームはDsupが細胞内のDNAとタンパク質の複合体クロマチンに結びつくことを突き止めました。クロマチンに結びついたDsupは、X線が生むヒドロキシルラジカルからDNAを保護する雲を形成することで、細胞を守っていたのです。Dsupには2つのパーツがあり、1つがクロマチンに結びつく役目を、もう1つが保護用の雲を形成する役目を担っていました。
研究チームは、Dsupのこの機能は放射線からの保護だけを目的としたものではなく、クマムシの多くが生息するコケの多い環境でのヒドロキシラジカルに対する生存メカニズムではないかと考えています。コケが乾燥すると、クマムシは脱水症状により休眠状態(乾眠)に移行します。その間、Dsupによる保護が、生存を手助けするのです。
この研究は、極限環境で長く生存することができる動物の細胞の開発にも将来的に役立てることができるでしょう。また、医薬品開発のための培養細胞の耐久性と寿命の改善にも応用できるかもしれません。