Point
■キンカチョウの子供に父親から歌を学ばせる代わりに、歌の記憶を脳に埋め込むことで、歌のリズムを学習させることに成功
■歌と同じリズムで点滅する光を鳥に照射し、鳥のさえずりを制御する神経核に情報を伝達する、感覚運動野の神経活動を変化させた
■今回の発見は、自閉症などの神経発達障害を持つ人々の言語学習の改善も役立てられる可能性がある
キンカチョウという鳥を知っていますか? 体長10センチほどの中米原産の鳥で、その愛らしい見た目と社交的な性格でペットとしても人気が高い種です。
このキンカチョウ、人間の子供が周囲の話し声を真似することで言葉を覚えるのと同じように、父親の歌を聴いて、それを学習することが知られています。
今回、テキサス大学サウスウェスタンO’Donnell Brain Instituteの神経科学者トッド・ロバーツ氏らの研究チームが、キンカチョウの子供に父親から歌を学ばせる代わりに、歌の記憶を脳に埋め込むことで、歌のリズムを学習させることにこのほど成功しました。論文は「Science」誌に掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/366/6461/83
光の点滅で記憶を脳にコード化
ロバーツ氏らが用いたのは、光遺伝学と呼ばれる手法です。光でニューロン内部の感光性タンパク質の働きを制御し、ニューロンが発火するタイミング操作を試みました。
研究チームはこのツールを使って、鳥のさえずりを制御するHVCと呼ばれる神経核に情報を伝達する、感覚運動野Nifの神経活動を変化させることに成功しました。
研究チームはキンカチョウの歌と同じリズムで点滅する光を鳥に照射し、鳥の脳に歌の「記憶」をコード化しました。それはキンカチョウの子供が父親のさえずりを聴いてそれを記憶する際のプロセスと同じでしたが、唯一異なる点は、歌を教えてくれる父親が介在していないことです。
ですが、歌はリズム、つまり各音の長さだけで構成されているわけではありません。歌を完全に歌えるようになるためには、音程などの他の要素も学ぶ必要があります。
ロバーツ氏によると、今回の手法は、歌の学習に必要な全ての要素をキンカチョウの子供に教えようとするものではなかったとのこと。「今回の調査を行ったHVCとNifという2つの脳領域は、パズル全体の1ピースに過ぎません」と、ロバーツ氏は語っています。
他のピースも見つけることができれば、歌を教える先生がまったく介在しなかったとしても、キンカチョウの子供にある歌を完璧に教えることが可能になるかもしれません。