多項式を使った証明
今回発表された論文で研究者たちは、問題を解くために整数の代わりに有限体という、数を限定した多項式を使って証明を行いました。
有限体は簡単に言えば時計を使った時間の計算のようなものです。時計は12以上の数がありません。例えば時間は3時から3時間経った場合「3+4」は7時ですが、9時から4時間経った場合「9+4」の答えは1時です。
有限体はぐっと計算をやりやすくします。コンピュータにとっては特にありがたい話になります。
こうした計算範囲を限定した有限体を使った多項式を作り、それを検証して証明を行ったのが今回の研究です。
多項式の場合でも、整数と同様に素数に類似した式を作ることができます。
中学校で教わったことですが、多項式は素因数分解というわり算のようなことができます。例えば「x2−1」は「x+1」と「x−1」に素因数分解できるので、素数ではないという感じです。
「なんでわざわざ多項式で考えるの?」と疑問が浮かびますが、それは多項式を使って考えた場合、それをグラフとして形で表現できるからです。
この場合幾何学的な手法によってグラフの形状を解析することで、整数では導き出せないような素数の性質について証明できるのです。
多項式でも、双子素数のような双生児を作ることができると言います。
整数と多項式には類似した性質があることがわかっています。多項式で確認できる性質は、整数にも存在していると言えるのです。
こうしたちょっと複雑な数学のテクニックを組み合わせて用いることで、双子素数の予想の特殊なバージョンの証明に成功したというわけです。
ただ残念ながら、今回の証明は幾何学に依存していて基礎となる数学があまりに違うため、本来の双子素数の予想には使えないとのこと。
「じゃあ何の意味があったの?」と思ってしまいますが、大きな証明を行うために小さな証明を積み重ねていくことは数学の基本的な手法です。フェルマーの最終定理のような難問も、こうした無関係に思える証明の積み重ねで解決したと言われています。
これは高く険しい山の頂の景色を眺めるために、近くのもっと小さい別の山を登ってそのルートを確認していることに等しいと言われています。本来登りたい山の頂は雲に隠れて見えませんが、いきなり険しい山に登って遭難するより、簡単な山の制覇を積み重ねてから挑むほうが、良い結果を生むことにつながるでしょう。
今回の研究者である、Shusterman氏とSawin氏は、今回の証明で学んだことを生かして今後も双子素数問題に取り組みたいと語っています。
数学者の場合、素数を数え始めると、その出現法則が気になって逆に気分が落ち着かなくなるのかもしれません。