- 南極に14か月滞在した調査員9名に、脳の大幅な収縮が見られた
- 原因は、社会から隔離された単調な生活が長期化したことによると考えられる
ドイツ・シャリテー大学病院は、4日、14か月の南極滞在をした9名の調査員に脳の収縮が見られることを発表しました。
特に、学習と記憶の能力に関わる「海馬」に縮小が見られ、認知機能も大幅に低下していたようです。
隔絶された環境と限られた人とのコミュニケーション、単調な生活による脳刺激の減少が、脳収縮の主な原因と考えられています。
研究の詳細は、12月4日付けで「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1904905
社会からの隔絶は脳を縮める?
9名の調査員が滞在した南極の施設「ノイマイヤー基地III」は、ウェッデル海に隣接するエクストロム棚氷の近くにあります。荒涼とした極寒の地に囲まれたこの施設は、まさに「隔離空間」の模範例です。
9名は、南極滞在の前と後の2回、脳内のMRI撮影と「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれる脳内のタンパク質レベルの測定を受けています。BDNFタンパク質は、脳内の新しいニューロンの成長に不可欠であり、これが欠乏していると、海馬は新しい神経接続を形成することができません。
その結果、帰還後の9名の脳容量およびBDNFレベルは、滞在前から大きく低下していました。
出来事の記憶に関わる「歯状回(海馬の一部)」が、4〜10%縮んでおり、BDNFレベルに関しては、平均して45%の減少が見られ、帰還後1か月半が経過しても低いままでした。
同時に実施した空間処置および選択的注意を測定するテストでも、スコアの大幅な低下が見られています。
研究チームのアレクサンダー・スタン氏は「隔離生活が、マウスなどのげっ歯類に同様の影響をもたらすことは知られていたが、人で観察されたのは初めて」と話します。
海馬は、成人期になってもニューロンを生成する数少ない脳領域の1つであり、学習や新しい記憶の獲得に伴って神経回路を絶えず再編成します。つまり、海馬の収縮は、感情処理やコミュニケーション能力に支障をきたす可能性が高いのです。
スタン氏は「データが少ないため、まだ断定はできないものの、隔離期間が長期化すると、社会生活に必要な認知機能を損なう可能性は大いに指摘できる」と述べています。
研究チームは、現在、隔離された場所で脳収縮を防ぐ方法(エクササイズや感覚刺激を与えるVR試験)がないか調査中とのことです。