Point
■イスラエルの研究により、脳には自己に関連する「死」を否定し、「死」はすべて他人だけに降りかかるものと思い込む働きがあると判明
■実験では、他人と死が結びつく場合のみ脳がシグナルを発し、自分と死が結びつく場合、脳はまったくの無関心を貫いた
人は死に至る病を宣告された際、思わず笑ってしまうことがあります。これは、自分が死ぬ運命にある現実を拒絶する一種の心理的な防御反応です。
今回、バル=イラン大学(イスラエル)の研究により、こうした「死」を否定する防御反応は、脳自体の働きだったことが判明しました。
研究主任のYair Dor-Ziderman氏は「脳は死を『他人だけに降りかかる不運な出来事』とカテゴリー付けすることで、実存的な脅威から身を守っている」と話します。
また続けて「必ず訪れる死への考えを遠ざけておくことは、今この瞬間を生きるために不可欠な働きだ」と指摘しました。
研究の詳細は、11月15日に「NeuroImage」に掲載予定です。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1053811919306688
「死は他人だけに起こること」
研究チームは、脳が死をいかに認識するか調べるため、脳波活動のモニタリング実験を行いました。
被験者には、スクリーンに連続でフラッシュアップされる顔写真を見てもらい、観測者はその際の脳波を観測します。写真は、被験者自身の顔や見ず知らずの顔がランダムに映し出される仕組みです。
このとき、次に映し出される顔と被験者の予想が合致した場合、脳は「驚き」を示す電気シグナルを発することが分かりました。
また、顔写真の上には様々な単語が同時に添付されており、その半分は「葬式(funeral)」や「埋葬(burial)」といった死に関連するワードです。
すると、被験者は、死のワードと他人の顔が合致したときに電気シグナルを発していたのですが、自身の顔と死のワードが合致した際は、いかなるシグナルも発していなかったのです。
これについて、Dor-Ziderman氏は「脳が自己と死の結びつきを拒絶するため、予測システムを自動的にシャットダウンさせた」と説明します。脳は、否が応でも自分が死ぬことを連想したくないというわけです。