2004年12月26日、インドネシア西部・スマトラ島北西のインド洋で、マグニチュード9.1を記録した大地震が発生しました。
この地震は、現在、「スマトラ島沖地震」として知られています。
地震後の津波は、インドネシアやインド洋沿岸、東南アジア一帯に押し寄せ、22万人超の死者を出しました。津波の被害は、インド洋に浮かぶアンダマン・ニコバル諸島の原住民たちにも及びんでいます。
ところが、アンダマン諸島に暮らす原住民・オンゲ族は、ある理由のおかげで、グループに属する96名全員が津波から生き延びたのです。
その理由とは、オンゲ族に代々伝わる神話伝承でした。
「神話」が命を救った
オンゲ族は、3万〜5万年の長きにわたりアンダマン諸島に暮らす最古の民族の一つにして、地球上で最も孤立した民族です。外部世界との接触がほとんど無く、原始時代の生活スタイルを留めています。
一方で、人口減少や病原体への抵抗力の弱さから、絶滅の危機にあるのも事実です。
ところが、15年前のスマトラ沖地震に関しては、グループ間に口承で伝わる神話のおかげで、当時存命だったオンゲ族全員が津波から生き延びています。
その神話はこう始まります。
最初に、神プルガが、人間の男と女をつくった。彼らの間に、息子と娘が2人ずつ生まれた。プルガは、人間たちに火や知恵、言葉を授け、掟を定めた。
ところが、最初の父母が死ぬと、子孫たちはプルガの掟を無視するようになる。激怒したプルガは、大津波を起こし、一番高い丘だけを残して、すべてを海に沈めた。
生き残った4人の男女は、人間を殺したプルガに復讐を誓う。しかし、プルガは言う。「お前たちは、親が従ってきた掟に背いたので、津波の罰を受けた。将来、また過ちを繰り返すならば、同じ罰を与えるだろう」と。
人類は、それ以降、プルガの掟を守って生きている。
続いて彼らの神話には、「地面の巨大な揺れに続いて、高い水壁が続く」という記載があるといいます。
人類学者 、マニシュ・チャンディ氏によると、「地震が発生すると、オンゲ族は森の奥深くの高地に移動し、波の怒りから逃れた。この神話が正確に伝わっていたからこそ、地震をブルガの怒りと見て、高地に逃れられたのでしょう」と説明しています。
実際、オンゲ族が住んでいた居住区は、波に飲み込まれて沈んだそうです。
便利な科学器具や医療技術を持たない原住民が生き残る術は、先祖から伝わる知恵を忠実に守るしかありません。
スマトラ沖地震のケースは、まさに「先人の話にはしっかり耳を傾けるべき」ということを教えてくれています。