超光速運動とは?
超光速運動とはジェットが観測者の視線方向に近い角度で傾いているときに、起きる錯覚です。
これは私達に観測対象の移動速度を誤認させ、光速を超えているように見せるのです。
私達は物質を観測するとき、その放射される光子を見ます。ジェットの観測で見ているのはX線で可視光線ではありませんが、普通に物を見ることと原理は同じです。
観測では、物質の移動した距離を、ある点Aで放たれた光と、ある点Bで放たれた光の届く時間差で測定しますが、この光子の放射を見るとき、見るべき物質自体が光速に近い速度で移動しており、その移動する角度が視線方向に傾いているとき光速を超えているように誤認してしまうのです。
上のグラフはジェットの角度θが視線に対して20度だった場合の、見かけの速度と実際の速度の比を描いたものです。このグラフを見るとジェットの速度が99%だった場合、見かけの速度は光速の500%になってしまうことがわかります。
今回の観測では、それが6.3倍(630%)になっていたということです。
そのためジェット角度などを含めて計算すれば、ジェットが物質を放出する正しい速度を得ることができます。そして計算されたジェットの速度は光速の99%を超えていたのです。
もちろん100%は超えません。これは物理法則で禁じられていることで、超えたら宇宙の法則が乱れてしまいます。
ジェットの速度が光速の99%近くに達することは以前から予想されていました。しかし、実際ジェットの速度を示す証拠が観測されたのは今回が初めてです。
これは観測精度がいかに向上しているかを示す好例でもあります。
ブラックホールのジェットは予想されていた通り、物理的に物質の出すことができる限界速度で放射されていたのです。