火星の一年は地球の2倍もありますが、季節の変化は太陽系惑星の中で、もっとも地球によく似ていると言われています。
きちんと夏と冬が交互に訪れていて、北極を覆う氷の層も、組成や広がりが微妙に変化していくためです。
非常に強力なカメラ『High Resolution Stereo Camera(HRSC)』を搭載した欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機マーズ・エクスプレスは、そんな火星の北極に見られる巨大な氷の層を、高解像度で撮影し、その時間変化を記録しています。
こうした研究は、何百万年もかけて変化する地球の気候を理解するための手がかりになります。
トップの画像は2006年の夏に撮影された北極冠です。
火星の北極は、冬の気温が-125℃まで下がり、二酸化炭素が凍りつき、上空にも二酸化炭素の雲が発生するため軌道上から地上が見えづらくなってしまいます。
一方、夏はそうした雲がないためクリアな画像が撮影できます。
極点にできる螺旋の地形
明るく白い氷と赤茶けた地面が縞模様の波状になっていますが、これは極点から外側に向かって螺旋状に広がる細長い窪地が形成されているためです。
このような地形が生まれるのは、滑降風(カタバティック風)が原因です。滑降風は密度の高い空気が高高度から低地へ滑降することで起きる風のことです。
火星では、局地の氷河から冷たい密な風が、谷や窪地に向かって滑降します。このとき風は、火星が回転することで生み出されるコリオリの力によって、直線ではなく湾曲した渦のように流れます。それが螺旋状に谷を形成していき、画像のような縞模様の渦ができるのです。
画像の左端などには、縞模様の雲を見ることができますが、これは塵が舞い上がって起きた局所的な嵐で、これも崖を侵食して地形を作り出す原因になっています。