西暦79年に起きたヴェスヴィオ火山の大噴火は、ポンペイやヘルクラネウムといった古代ローマの町を一瞬で破壊しました。猛然と迫る溶岩流に、人々は逃げる暇もなく、多くの人命が犠牲になっています。
以来、火山灰から出土した犠牲者の遺体は、現在でも調査が続いており、火山の恐ろしさを物語っています。
そして今回、フェデリコ2世・ナポリ大学の研究により、遺体の中からガラス化した脳組織が発見されました。
考古学調査において、脳が見つかることは滅多にありません。脳組織の脂肪分が時間とともに溶解してしまうためです。しかも、今回のようにガラス化した脳が発見されたのは初めてのケースだといいます。
研究の詳細は、1月22日付けで「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1909867
火山熱で脳が蒸発した⁈
ガラス化した脳が見つかった遺体は、1960年代に発見されたものです。調査によると、遺体は25歳ほどの男性で、発見時は木製のベッドにうつ伏せで横たわっていました。溶岩流に襲われた際は眠っていたのでしょう。
研究チームは、その遺体の頭蓋骨の内側に、黒く光る破片がくっついているのを発見しました。
分析してみると、破片の中に人の脳領域に存在するタンパク質が発見されました。そのタンパク質は、例えば、意思判断を行う大脳皮質や感情処理にとって重要な扁桃体に含まれています。
脳組織がガラス化した経緯について、研究主任のピエル・パオロ・ペトロン氏は、次のように説明します。
「遺体の側にあった木片を調べると、摂氏520度を越える火山熱に晒されていたことが判明しました。おそらく、この火山熱により、血液や脳の髄液、軟組織が爆発に近いような蒸発を起こし、瞬時に溶けたと思われます。その後、溶けた脳が急速に冷えたことで固まり、ガラス化(Vitrification)を引き起こしたのでしょう」
男性は眠っている間に、極度の高熱に晒され即死したのでしょうが、他にも空から降り注ぐ砕石物に打たれたり、火山灰の有毒ガスを吸って苦しい死を迎えた人もたくさんいます。
いずれにせよ、自然の恐ろしさは今も昔も変わりませんね。