- 大脳半球除去を受けた患者は、脳の半分がないにも関わらず、何不自由なく生活することができる
- 半球がない患者と一般人の脳を比較した結果、各脳領域におけるネットワーク間の結びつきは、患者のほうが強いことが判明
上の画像は、脳の半分を切除した患者のMRI映像です。脳の頭頂部から底部までのスライス画像を一連の動きで見せているので、このような見え方になります。
脳は、身体の動きから感情、思考まであらゆる機能をつかさどる重要な器官です。その脳が半分も無いとなれば、心身ともに大きなダメージを被ることは簡単に想像できるでしょう。
ところが、大脳の半球を切除した患者は、術後も何不自由なく生活できることが知られています。この事実は、脳に損傷したり、失われた部分をカバーし、再構築する「神経可塑性」の機能があることを示唆しているのです。
そこでカリフォルニア工科大学の研究チームは、大脳半球の切除を受けた6名の男女を対象に脳機能をくわしく調査しました。
研究の詳細は、11月19日付けで「Cell Reports」に掲載されました。
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(19)31381-6#%20
脳の驚異的なリカバリー能力が明らかに
「大脳半球切除手術(hemispherectomy)」は、子供の頃に、非常に激しい反復性のてんかん発作が見られる場合にのみ行われます。
実験に参加した6名の男女(20〜30代)も、生後3ヶ月〜11歳までの間に命に関わるてんかんを発症し、病根に侵されている側の半球を取り除いています。しかし6名全員が、一般人と同じ不自由ない生活を送っているのです。
研究チームは、残された半球がどの程度まで脳機能をカバーしているかを調べるため、6名の脳をMRI撮影し、約1500名(平均22歳)の健康な被験者と比較しました。
脳の活動は、感覚、運動、感情、思考のプロセスに取り組んでいる領域においてトラッキングされています。
研究チームは当初、脳全体の統一的な機能は、右脳と左脳の両方にまたがるため、切除を受けた患者では、脳の神経活動が普通よりもはるかに低いと予想していました。
しかし、結果は真逆でした。
6名の脳機能は正常に機能していただけでなく、それぞれの脳領域におけるネットワーク間の結びつきは、一般人よりも強いことが判明したのです。
また、研究主任のドーリット・クリーマン氏は「6名の言語機能も無傷であり、MRIスキャン中の会話実験も一般の被験者とまったく同じように話すことができた」と述べています。
この結果は、失われた領域を補完する脳の力が、これまで考えられていたよりはるかに大きいことを証明しています。
研究チームは今後、脳の補完メカニズムについて解明を進める予定です。その結果次第では、脳卒中や他の脳障害に対する新たな治療法が見つかるかもしれません。
脳には、まだまだ未知の力が隠されているようです。