- ミイラの声帯をCTスキャンして、3Dプリントで復元することで、生きた当時の声を復元することに成功
- 対象となったミイラは、約3000年前に生きた古代エジプトの司祭で、重要な人物であった
ロンドン大学は、23日、古代エジプトのミイラから「生前の声」を復元することに成功したと発表しました。
復元された声はネスヤムン(Nesyamun)と呼ばれる、紀元前1100年頃に生きた古代エジプトの司祭のものです。彼は当時のファラオであるラムセス11世の治世下で書記を務めた重要人物でした。
ネスヤムンは50代で亡くなっており、死因は有毒昆虫に刺されたことによるアレルギー反応と言われています。
また、ネスヤムンは1824年の発掘以来、世界で最も保存状態の良いミイラとしても有名です。
研究の詳細は、1月23日付けで「Scientific Reports」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41598-019-56316-y
ネスヤムンの「声帯」を完全再現
研究主任のデヴィッド・ハワード氏は「ミイラの状態の良さから、声帯のCTスキャンを取ることで、声を復元できるのではないか」と考えました。
スキャンの結果、研究チームはミイラを傷つけることなく、声帯の細かなデータを採取することに成功しています。
さらに、気道や喉の骨、軟組織の位置を測定することで、ネスヤムンの声帯をデジタル上で完全復元。それを3Dプリントして、ボーカル・ボックス(人工電子咽頭)を内蔵することで、ネスヤムンの声を復元しました。
3000年越しに現代に蘇った声がこちらです。
ここで再現されたのは、母音の「e」と「a」に近い音です。「え、これだけ?」と思う人も多いでしょうが、最初のステップとしてはこれが精一杯とのこと。
もちろん、これも正確に復元された声とは言えません。
CTスキャンは、ミイラが頭を後ろに傾けたリクライニング姿勢で実施されました。つまり、復元された声は、棺の中に横たわった状態の声帯を再現したものになります。
また、保存状態が良いとはいえ、部分的な経年劣化は否めません。例えば、ネスヤムンの舌は、筋肉量の大部分を失っており、軟口蓋(口腔の上壁後方部)が欠けていました。
欠損部は、デジタル復元の際に埋め合わせています。
ネスヤムンは、生前、司祭として民衆の前で儀式的な職務を執り行うことがありました。おそらく、テーベに住むエジプト人の多くが彼の声を聞いたことでしょう。
また、ネスヤムンの棺に「真実の声(true of voice)」を意味する文字が刻まれていることから、彼の発言は、民衆にとって非常に重要なものだったことが伺えます。
復元された声が、ネスヤムンの生きた声にどれだけ近づけたのかは分かりません。
それでも、3000年も前に生きた人の声を聞けると思うと、ロマンを感じますね。