- アシナガバチの1種「ポリステス・フスカトゥス」は、昆虫には異例の顔を識別する能力を持っている
- P.フスカトゥスのコロニーは、女王が複数存在することが多く、ヒエラルキーを平和に維持するために顔認識が重要となる
アシナガバチの1種である「ポリステス・フスカトゥス(northern paper wasp)」は、他の昆虫には見られない特殊能力を持っています。
それは「仲間同士の顔を識別する認知能力」です。
顔を見分ける能力は、多くの脊椎動物が持つ一方、昆虫にはありません。なぜ彼らだけがこの複雑な認知能力を獲得するに至ったのか、これまで大きな疑問でした。
しかし今回、アメリカ・コーネル大学の研究により、その秘密が明らかにされています。
研究の詳細は、1月24日付けで「PNAS」に掲載されました。
https://www.pnas.org/content/early/2020/01/23/1918592117
ペイントされた仲間を敵と見なす
ポリステス・フスカトゥス(以下、P.フスカトゥス)に、顔識別の能力が存在すると判明したのは2002年のことです。
P.フスカトゥスのコロニーの内、数匹のハチの顔にペイントを施したところ、彼らは巣の仲間たちから攻撃を受け始めました。しかしコロニーがペイントしたハチに慣れるにつれ、攻撃も次第になくなっていったようです。
このことから、P.フスカトゥスには、相手の顔を見て、敵か味方かを判断する視覚認知の能力があると考えられていました。
そこで今回コーネル大学の研究チームは、P.フスカトゥスとその近縁2種(顔認識能力を持たない)のDNAを採取し、比較解析しました。
その結果、P.フスカトゥスのみに、過去数千年の間で、認知能力を急速に獲得したDNA痕跡を発見。さらに、認知能力だけでなく、長期記憶の形成やキノコ型の胴体の発達、視覚処理能力の向上なども確認されました。
研究主任のマイケル・シーハン氏は、この結果について、「驚くべきは、彼らの進化史の中で、仲間の顔を見分ける能力が選択されたことだ」と指摘します。
確かに、どれも似通った互いの顔を見分けるよりも、温暖化への適応力や食料採取の能力をアップさせた方が生存に有利に働くと思われます。しかし、P.フスカトゥスには、彼らなりの理由があったのです。