ブラックホール周辺のハビタブルゾーン
地球上の大気温度は、大気を加熱する太陽エネルギーと、地球から宇宙空間へ放出されるエネルギーのバランスで成り立っています。
Bakala氏は、そんな惑星の熱力学(thermodynamic)の観点から、今回の問題にアプローチしました。
生命の居住可能環境には、利用可能なエネルギー源(地球の場合は太陽)と廃熱の吸収源(冷えた宇宙空間)が必要です。
太陽の代わりにブラックホールが存在するという環境で、この条件はクリアできるのでしょうか?
インターステラーの場合、これが逆になっていました。
太陽に当たるブラックホールが冷たい熱吸収元であり、宇宙空間から熱源となるエネルギーとして宇宙マイクロ波背景放射(CMB)が来ているのです。
CMBは、ビッグバンの残光やこだまと表現される電波です。これはもともとビッグバンが放った強力な放射線でしたが、宇宙空間が膨張するに従って波長は引き伸ばされ、現在はただの電波となって漂っています。
このままでは熱源として利用はできません。
しかし、超大質量ブラックホールの周辺では、極端な重力によってCMBの波長は再び圧縮されて、太陽光の代わりになるような高エネルギーの放射線になっているのです。
「ブラックホール周辺の惑星にとってCMBは、ブラックホールの端にある明るい星のように見えるだろう」と研究者は話します。
しかし、この圧縮されたCMBから十分に強い光を受け取るためには、惑星がブラックホールの「事象の地平面」のかなり近くを公転する必要があります。
当然「事象の地平面」を超えてしまえば惑星は粉々に砕かれてしまいます。
研究者が計算した結果、惑星が事象の地平面に接近しながら、安定した公転軌道を保つには、ブラックホールが非常に大きく、ほぼ光速で回転している必要がある、ということがわかりました。
「ほぼ光速度」とは光速度から1億分の1%未満しか速度が低下していない圏内を指しています。
またブラックホールが小さいと事象の地平面の外側でも、ブラックホール本体に近すぎるため、潮汐力の影響で惑星が引き裂かれてしまいます。
これは天の川銀河の中心にある、太陽質量の400万倍程度のブラックホールでは成立しません。
この惑星を破壊するような潮汐力の影響を、事象の地平面近くで受けないようにするためには、太陽質量の約1億6300万倍という極端なサイズが必要になります。
さらに、惑星内で生命が繁栄するには、ブラックホールの周囲がほぼ何もない平穏な空間でないといけません。
もし周囲に、多くのチリやガス、恒星が浮遊していれば、ブラックホールがそれらを吸い込んだ時に放出する大量の放射線により、惑星内の生命を死滅させてしまう恐れがあるのです。