- 犬の鼻は1m離れた物体の温度を感知できることが判明
- この温度感知能力は先祖のオオカミから受け継いだ可能性が高い
犬の鼻は非常に発達しており、時間さえ感じ取れることがわかっています。
今回新たな研究により、犬の鼻には高度に発達した嗅覚の他に、微弱な熱放射の感知能力が備わっていることが判明しました。
この能力はおそらく、獲物の体温を嗅ぎ分けるために存在するものと思われます。
これにより、イヌ科の哺乳動物が視覚や聴覚、嗅覚を欠損させた状態でも狩りができる理由が説明できるようになるでしょう。
研究の詳細は、「Scientific Reports」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-60439-y
「熱放射」を嗅ぎ分ける鼻
熱放射とは、物体から熱エネルギーが電磁波として放出される現象のことです。
物体を熱放射を感知する能力は、少ないながらも数種の動物たちに見られます。例えば、ヘビやコウモリ、いくつかの哺乳類は、獲物を狩るために熱探知を駆使しています。
一方、犬の鼻は興味深い特徴を備えていることで知られていました。犬の鼻表面は湿っていて、周囲の部位より温度が低いのです。
温度が低いと温熱を感じる神経が敏感になり、さらに細かな神経が詰まっていることから、「犬の鼻は匂いだけでなく、温度感知もできるのではないか」と以前から推測されていました。
これを検証するため、ルンド大学(スウェーデン)およびエトヴェシュ・ロラーンド大学(ハンガリー)の共同研究チームが、温度感知実験を実施しました。
まず、3頭の犬を訓練して、「室内と同じ温度の物体」と「温度が少し高い物体(31度)」との間で選択できるようにしました。それぞれの物体とは1.6メートル離れており、見た目や匂いに違いはありません。
実験の結果、犬は見事に微弱な熱放射だけをヒントに、温度が少し高い方を選ぶことに成功したのです。
これとは別に、研究チームは、fMRIを用いてそれぞれ異なる飼育を受けた13頭の犬の脳をスキャンしました。スキャンは、犬が熱を放たない物体と微弱な熱を放射する物体とを目の前にした状態で行いました。
すると、熱を放射する物体を前にした時だけ、左脳側の「体性感覚野(鼻から受容した感覚情報を運ぶ役割を持つ)」が活性化していたのです。熱への反応は左脳だけに見られ、右脳には確認されませんでした。
こうした犬の温度感知能力について、研究チームは「先祖のオオカミから受け継いだ可能性がある。オオカミは、獲物の体温を嗅ぎ分けることで狩りをしていた」と指摘します。
一方で、犬の温度感知がどれほどの範囲まで適応されるかは分かっていません。
コロラド大学ボルダー校の動物行動学者マーク・ベコフ名誉教授は「冷たい鼻を持つ犬の嗅覚世界について、新たな研究の窓口を開く実に興味深い研究だ」と述べています。