- 超高密度天体「中性子星」は、自然界の4つの力の1つ「強い核力」によって潰れずに支えられている
- 「強い核力」は、原子核を構成するための引力だが、極近距離では斥力として働く
- 新しい研究は、これまで謎の多かった「強い核力」が近距離で働かせる斥力について、具体的な計測に成功した
この世の物質は、全て原子で構成されていますが、その原子の中身は原子核と電子です。
そして原子核は、陽子と中性子という核子が見えない強い核力によって接着剤のように結合されています。
この強い核力とは、重力、電磁力、弱い核力とともに物理学の基本となる4つの力の1つです。
強い核力はその名の通り、4つの力の中で最強の力を持っていて、本来なら同じ電荷で反発するはずの陽子さえまとめています。
しかし、この強い核力には謎があります。それは自然界最強の引力であるにも関わらず、原子核内の陽子・中性子同士よりも、さらに近距離にくっつくほど接近した場合、逆に斥力になるというのです。
原子核内よりも、それぞれの核子が接近する状況というのは、普通にはありえませんが、自然界にはその極端な状況を成立させているものがあります。
それが中性子星です。
スプーン一杯で地球と同じ質量を持つと言われるほど、とてつもなく高密度の天体「中性子星」の中では、中性子が原子核内よりも密集してくっついている状態になっています。
非常に重い天体が、最後に自重で潰れることなく中性子の塊として成立する秘密がここにあります。
中性子星が発見されて以来、物理学者たちはこの恐ろしく近距離で強い核力が、それぞれの核子にどのように作用しているか理解するために苦労していました。
新しい研究は、そんな極端に短い距離の陽子と中性子の相互作用について、粒子加速器の実験データを使って、初めて特徴づけに成功したと報告しています。
この研究はマサチューセッツ工科大学の研究者A. Schmidt氏をはじめとして、MIT、ヘブライ大学、テルアビブ大学、オールド・ドミニオン大学およびジェファーソン研究所の粒子加速器CLASの科学者グループが参加する研究者チームにより発表され、論文は科学雑誌『Nature』に2月26日付けで掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2021-6
物理学を支配する 4つの力
物理学では自然を支配する基本的な4つの力が定義されています。
電磁力、重力、弱い力、強い力です。
前半の2つなら、日常生活でも身近に感じられ、誰でも知っている力ですが、後半の2つはなんでしょうか?
プロの物理学者の中にも、「この名前なんとかなんないの?」と疑問が上がるほどえらくざっくりした名前を付けられた「弱い力」と「強い力」は、原子核物理学で重要な力で、原子以下というレベルのミクロな世界でしか働いていません。
そのため、私達が意識したことも感じたこともないのは当たり前なのです。
弱い力については、ベータ崩壊という原子核物理学の現象で重要となるものです。
そして、今回の研究の主役となるのが「強い力」です。これは陽子と中性子を結びつけて原子核を構成している力で、「強い核力」または「強い相互作用」とも呼ばれています。
ここでは力と表現しましたが、電磁力が電気力と磁力に別れて見えるように、1つの力の異なる側面が別々現れる場合もあるので、一般的には相互作用と表現するほうが正確かもしれません。
それにしても、「強いってなんやねん」と思う人がいるかも知れません。しかし、この力はまごうことなく4つの力の中では最強なのです。
その強さは、電磁力と比較した場合に約100倍、重力と比べた場合には1040倍という途方も無い大きさになります。(重力が小さすぎるという言い方もできますが)
まさに力こそパワーと言いたくなる強大な力です。が、その影響範囲はおそろしく狭く、10-13メートル程度しか届きません。強いけど射程が短いという、まるで能力バトル漫画のお約束のような性質を持っています。
物理学の基本的な力には、それぞれ力を伝達するボソンと呼ばれる素粒子が存在します。
電磁力は光子、重力はグラビトン(未発見)、弱い核力はウィークボソン(W粒子とZ粒子)です。そして強い核力を媒介するのが、グルーオンという素粒子です。
そのため、強い核力の作用を理解するためには、中性子や陽子を構成するクォークと、グルーオンの複雑な相互作用を考えなければならないと言われています。
これは量子色力学という非常に難解で複雑な分野のお話になってきます。