- 宇宙の膨張率を計算すると地球近傍と遠方宇宙(古代の宇宙)では、膨張速度が異なる
- これは宇宙が加速膨張している証拠だが、実は地球近傍だけ加速しているとする、ハッブルバブルという仮説もある
- 新しい研究は計算からハッブルバブルの存在を支持しており、暗黒エネルギーなど加速膨張を支える理論は不要としている
宇宙は膨張しています。
この事実はルメートルなどによって最初の提唱がなされ、その後ハッブルの観測によって証明されました。
そして、彼らの功績から誕生した「ハッブル=ルメートルの法則」から、宇宙の膨張率を調べるハッブル定数が登場しました。
このハッブル定数は、地球から数億光年程度の天体の赤方偏移を使って計算した場合と、古代の宇宙から伝わる宇宙マイクロ波背景放射を使って計算した場合だと、10%近く値がズレてしまいます。
これは宇宙の膨張速度が加速しているためと解釈されていて、これを成り立たせるために暗黒エネルギー理論などが登場しました。
しかし、実は宇宙は加速膨張なんてしていなくて、地球の近くだけ膨張速度が早いだけなんじゃないの? という考えを示す学者が登場し、ハッブルバブルというものを使って説明されています。
ハッブルバブルは異なる2つのハッブル定数の計算のズレを完全に説明できる理論ではないため、あまり注目されていませんでしたが、新たな研究は、この誤差をハッブルバブルの理論から正しく導くことに成功したと報告しています。
もし事実なら、宇宙は加速膨張していないことになり、暗黒エネルギーも不要になります。果たして暗黒エネルギーとハッブルバブル正しいのはどちらなのでしょう?
この研究はスイスのジュネーブ大学の研究者Lucas Lombriser氏より発表され、物理学の学術雑誌『Physics Letters B』のVolume 803に掲載されています。
https://doi.org/10.1016/j.physletb.2020.135303
宇宙の膨張率を計算する2つの方法
宇宙の膨張率はハッブル=ルメートルの法則によってハッブル定数(H0 )として計算されます。
これには現在、2つの計算方法があります。
1つは、宇宙のどこでも光度が一定のⅠa型超新星爆発の「赤方偏移」を測定して計算する方法で、これは比較的地球近傍(といっても数億光年)のローカルな膨張率を測るものです。
もう1つは、プランク衛星の調査によって正確なデータが得られた宇宙マイクロ波背景放射を使って計算する方法で、宇宙全体を広く調べるグローバルな測定です。
宇宙マイクロ波背景放射はビッグバンの残光と表現されるもので、宇宙誕生の37万年後の宇宙が冷えて光が自由に飛び回れるようになった時代の放射光で、現在は宇宙のあらゆる方向から地球に届いています。
これは長い時間が経過する中で波長が伸びて現在は電波波長として検出されます。光であったものが電波になってしまったのは空間が伸びたためで、つまりは宇宙膨張の証拠となるのです。
ところが、この2つの計算結果は10%程度誤差が出てしまうことで知られています。
赤方偏移を使ったローカルな宇宙の膨張率を計算すると、H0は74km/s/Mpcとなります。
(km/s/Mpc:キロメートル毎秒毎メガパーセク)はハッブル定数の単位で、これは1Mpc(326万光年)ごとに宇宙は毎秒74km膨張しているという意味になります。
一方、宇宙マイクロ波背景放射を使った計算では、H0は67.4km/s/Mpcとなります。
なぜ、ローカルな宇宙とグローバルな宇宙では、ハッブル定数に誤差が出てしまうのでしょうか?