
幻聴というと、精神疾患や脳の障害など、「自分に害をなすもの」「ネガティブなもの」というイメージがついてまわります。
しかしイギリスの医学界では、「幻聴が患者の命を救った」という嘘のような本当の話が語り継がれているのです。
物語は1984年のイギリスに遡ります。健康に日々を過ごしていた女性(身元は非公開)が、ある日突然、「脳の検査を受けなさい」との幻聴を聴き始めたのが始まりでした。
彼女はその後、この幻聴によって命を救われることになります。
幻聴が命を救ったケースは、後にも先にもこの一例のみと言われています。以下は、女性が実際に体験した本当の話です。
報告の詳細は、「BMJ Clinical Research」に掲載されています。
https://www.researchgate.net/publication/232271307_A_difficult_case_Diagnosis_made_by_hallucinatory_voices
「幻聴」が人命を救った真実の物語
女性は、1940年代半ばにヨーロッパで生まれ、60年代後半にイギリスに移住しました。
一連の仕事を経て、結婚し、子どもをもうけ、専業主婦として充実した生活を送っていたそうです。心身ともに健康で、持病もなく、以前に大きな病気で医者にかかったこともありませんでした。
ところが、1984年の冬、家で本を読んでいた時に、頭の中ではっきりとした声を聞いたのです。
声は彼女にこう告げました。
怖がらないでください。こんなふうに話しかけられるのはショックだと思いますが、これが考えうる一番簡単な方法なのです。
私は以前、グレート・オーモンド・ストリートの病院(イギリスに実在する小児専門の病院)で働いていました。
どうかあなたのお手伝いをさせてください。
彼女は、突然の声に驚きました。
その病院のことは知っていましたが、場所も知りませんし、訪れたこともありません。子どもたちも元気だったので、声の言わんとすることが分かりませんでした。
不安を募らせていた間も声はやみません。彼女は「気が狂ってしまった」と思い、急ぎ精神科にかかりました。
医師からは、機能性の幻聴障害と診断され、精神安定剤を処方してもらったそう。薬の服用と心理カウンセリングを2週間続けた結果、頭の中の声は消えました。
ところが、外国で家族と休暇を過ごしている時に、再び幻聴が戻ってきたのです。
その際の助言は以前より具体的でした。「すぐに治療しなければならない問題があるので、すぐにイギリスに帰って、脳の検査をしてほしい」と告げたのです。
声は、検査を受ける病院の住所まで細かく教えたと言います。そこは、当時では最先端の脳内断層撮影ができるロンドンの大病院でした。
検査するべき理由として、「脳内に腫瘍ができていること」「脳幹に炎症を起こしていること」の2つを告げたそうです。

しかし、当時の脳内撮影は高度かつ高額な医療技術だったため、「幻聴がそうしろと言った」だけでは、病院側からゴーサインが出ませんでした。
それでも、精神科の主治医の頼みの末、脳内撮影が実施されました。
その結果、声の予言通り、脳内に腫瘍ができており、軽い炎症も起こり始めていたのです。まだ、明確な症状が現れる前段階にあり、除去手術も安全に行うことができました。
手術後、彼女が意識を取り戻した後、声は「お役に立てて良かった、それではさようなら」と言ったのを最後に聞こえなくなったそうです。
この症例は当然ながら、医師たちの検討会でも疑問や批判の声が多く、真偽のほどは定かでありません。
彼女自身の無意識の叫びだったかもしれませんし、天の声だったかもしれません。
いずれにせよ、世の中にはまだ科学で割り切れない不思議なことが数多くあるんでしょうね。