原子番号15番の「リン(P)」は生命にとって必須の元素で、DNA、RNA、細胞膜とあらゆる場所に見られます。
生物の中に存在する元素としては6番目に豊富な存在です。
そのため用途も豊富で、化学肥料から食品添加物、果ては発煙弾などの軍事兵器にまで使われています。
そんな便利で重要な元素のリンですが、これを人類で初めて発見した逸話はなんともぶっ飛んでいます。
リンは17世紀ドイツの錬金術師ヘニッヒ・ブラントが5500リットルにも及ぶおしっこを煮詰めて分離させたというのです。
錬金術師ヘニッヒ・ブラント
ヘニッヒ・ブラントは1630年にドイツのハンブルグで生まれました。
彼は三十年戦争に参加した後、見習いガラス職人として生活をしますが、結婚相手の女性が裕福な家庭の出で、多額の持参金と共に嫁いできたため、仕事を辞めてしまいました。
そして始めたのが、「賢者の石」の探求だったのです。ここで彼は錬金術師となります。
錬金術師と言うとファンタジーなイメージがありますが、現実の錬金術師は化学者のもとになった職業で、当時科学の分野で活躍した人は大体錬金術師でした。
物理学の世界を拓いたアイザック・ニュートンも錬金術師という側面を持っていましたし、近代科学の先駆者とされるロジャー・ベーコンも、近代化学の父とされるロバート・ボイルもみんな錬金術師でした。
錬金術はその名の通り、価値の低い元素を最高級の元素「金」に変えることを目指していました。
賢者の石は、そんな卑金属を貴金属に変えるための鍵であり、また不老不死の秘薬「エリキシル」の鍵であると言われていて、みなが追い求めていたものです。
さて、妻の持参金を元手に錬金術の研究に没頭したブラントでしたが、愚にもつかない神話上のオブジェクトなど見つかるはずもなく、たちまち財産を使い尽くしてしまいます。
最初の妻はそんな中で不幸にも亡くなってしまいます。
しかしその後、どういう運の巡り合せか、ブラントはまたまた資産家の未亡人のハートを射止めて結婚します。
彼は2番目の妻の資産を元手に、錬金術の研究を再開するのです。