- 熟練することは、創造の泉を右脳から左脳に変えていた
- 作品の演奏で高評価を得るには、総合的には左脳の活性が必要
- 低評価を受けた演奏は、前頭葉の理屈が活性化していた
- 一発屋で終わらないためには熟練した左脳の創造性と初心者としての右脳の創造性の2つがいるかもしれない
「革新的な右脳型人間」と、「論理的な左脳型人間」。
人気のある説ですが、近年の研究によって、人間の能力を右脳と左脳に画一的に分割することにあまり意味がないことがわかってきました。
ですが、それでも創造性に関する右脳信仰は根強く存在します。
創造性は特別な存在であり、故に脳内でも特別な部位で行われているべき、との考えが強いからです。
しかし今回、アメリカ研究者たちによって、右脳信仰にとどめをさす研究が行われました。
即興中のジャズ奏者の脳を詳しく分析したところ、創造性は初心者のうちは右脳で発揮されるものの、熟練と同時に左脳で発揮されることが証明されたからです。
今回の研究は多くのクリエーターが感じていた「慣れ」や「熟練」の感覚を新たな視点から説明するものになりえます。
しかし、なぜ「慣れ」や「熟練」は創造の泉の湧きどころを変えてしまうのでしょうか?
研究結果はペンシルベニア州にあるドルセルク大学のデイビッド・ローズン氏らによってまとめられ、オンラインで公開された後、学術雑誌「NeuroImage」の5月号に掲載される予定です。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811920301191?via%3Dihub
創造性は熟練すると湧き場所が右脳から左脳にかわる
仮説を実証するにあたって、研究者はジャズ奏者の脳を調べることにしました。
実際の実験にあたっては、32人のジャズ奏者の脳の脳波を、即興が行われる中で記録し、比較しました。
即興は音楽の中でも最も創造性が求められる区分だからです。
結果、経験の浅いジャズ奏者は演奏中に右脳が活性化しており、熟練したジャズ奏者は左脳及び中央部が活性化していることがわかりました。
このことは、技能が熟練されるに従い、創造性の働く場所が右脳から左脳に移ると同時に、活性化される範囲も広がったことを意味します。
左脳は自動化されたプロセスを得意としており、創造性の泉が左脳にうつったことで、熟練者は無意識的な創造を可能にしていたと考えられます。
またプロセスが自動化されることで、創造に必要なコストも低下し、脳のリソースを高品質化に裂けるようになったことが示唆されました。
これは多くの分野の熟練した(プロの)クリエーターたちが、直感的に感じていた内容でもあるでしょう。
創造性が自動化に組み込まれたことで、熟練したクリエーターは高品質の仕事を、安定的に提供できるようになっていたのです。
伝説のジャズトランペッターであるMiles Davis氏も「演奏が先、曲名は後から教える(I’ll play, and tell you what it is later)」と述べています。