- 銀河中心核となっている超巨大ブラックホールの周りをたった9時間の軌道で周回する星が見つかった
- この星はもっとも近い位置では、事象の地平線の半径の15倍以内という距離までブラックホールに近づいている
- この珍しい星は、降着円盤内で物質を吸われたときに起きるX線の発光から発見された
ブラックホールと言えば、なんでも吸い込み押しつぶす恐ろしい天体というイメージですが、そんな危険な場所で潰されずにかろうじて生き続ける珍しい星が発見されました。
この星はブラックホールに非常に接近した楕円軌道に捕らえられていて、たった9時間で周回しているといいます。
最接近しているとき、星は事象の地平線半径の15倍以内にあり、これほどブラックホールに近い状態で軌道を巡る星はほとんど報告がありません。
一体、この星はどうやってブラックホールに飲み込まれずに回り続けていられるのでしょうか?
小さな超巨大ブラックホール
今回観測されているのは、地球から2億5000万光年離れた銀河GSN 069の中心核となっている超巨大ブラックホールですが、この種のものとしては非常に小さく太陽質量の40万倍しかありません。
ちなみに、天の川銀河の中心核になっている超巨大ブラックホール「いて座A*(いてざエー・スター)」は、太陽質量の400万倍と推定されています。
観測されているのは白色矮星と呼ばれる種類の星で、これは太陽程度の質量の恒星が死んで核だけが残された姿です。
この星はもともと、恒星の晩年の姿である赤色巨星で、宇宙をさまよっていたと考えられます。それが、ブラックホールの重力の捕らえられ、非常に接近したとき外層の水素を全て奪われて、強制的に白色矮星まで進化させられたのです。
その後、この白色矮星は、ブラックホールに飲み込まれはしなかったものの、その重力圏からは逃れられず、9時間周期の楕円軌道を巡ることになったのです。
この白色矮星はもっともブラックホールに接近したとき、物質を吸い取られ降着円盤内で擦れ合ってX線フレアを放ちます。
今回の研究では、そのX線を捉えることで、この特殊な星を発見しました。
研究者のキング氏は、この接近時に重力波も発生しているはずであり、いずれそれも観測できるだろうと予想しています。
キング氏はこのX線フレアの大きさと、星の作る軌道から、この白色矮星の質量を太陽の約0.21倍だと推定しています。また、水素を剥ぎ取られた核だけが残っている状態のため、その構成素材はヘリウムを豊富に含んでいると推測しています。
2億5000万後年も離れた小さな星の軌道や質量、組成が推測できるというのは驚くべきことです。
この星の軌道は、相対性理論に基づいて考えると、2日に1度ほどの割合で軌道の軸がブレる歳差運動を行っていると予測されています。これは長く観測を続けていけば確認できるだろうと考えられています。
今回このような発見ができたのは、GSN 069のブラックホールの質量が小さかったことが大きな要因です。
天の川銀河の中心のように、大きな質量だった場合、星が砕かれずに周回するにはより大きな軌道を回る必要があり、それを観測で検出することはかなり困難になります。
どちらにしろそのような巨大なブラックホールでは、今回のように近すぎると星は破壊されてしまいます。
これは非常に珍しい発見なのです。
彼がここから抜け出すことはまず不可能で、もはやブラックホールの養分にされてしまっているようですが、それでも白色矮星として生き続けることになるようです。
少しずつ質量が奪われているため、いずれこの星は白色矮星ではなく、木星のような巨大ガス惑星になる可能性もあります。しかし、それには1兆年近い時間が必要だろうと計算されています。
これは宇宙が惑星を生む方法としては、あまりに迂遠で複雑なプロセスです。
なんにせよ非常に珍しいケースの発見で、これはブラックホールが巨大に成長していく過程を理解するために役立つと考えられています。
この研究は、英国のレスター大学のアンドリュー・キング氏より発表され、論文は「王立天文学会月報(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (
https://doi.org/10.1093/mnrasl/slaa020