- 月のほぼ全面から、宇宙空間に「炭素」が流出していることが判明
- 月は初めから炭素を持っていた可能性が浮上
- 月の誕生モデルが、今の有力説から180度転換するかもしれない
1969年7月24日、アポロ11号の月面着陸により、月の存在はずっと身近になりました。
それでも、月誕生の真相は、いまだに謎のままです。
これまでは、月の岩石サンプルに、水や炭素といった揮発性物質が検出されないことから、「ジャイアント・インパクト説が有力ではないか」と考えられてきました。
しかし今回、日本の月周回衛星「かぐや」により、月のほぼ全球から恒常的に流出する炭素が世界で初めて観測されたのです。
この結果は、月が誕生時から炭素を持っていたことを示唆し、現段階で最有力のジャイアント・インパクト説を覆すかもしれません。
本研究は、大阪大学大学院 理学研究科、JAXA 宇宙科学研究所など、複数の研究グループにより報告されました。
月誕生モデルが180度転換する⁈
ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)は、原始地球に火星サイズの天体(テイア)が衝突した結果、分離した部分が月になったという説です。
分離したての月は、超高温の火球であり、4000〜6000ケルビン(約3700〜5700度)に達していたと推測されます。
その高熱にさらされて、水や炭素などの揮発性物質がすべて蒸発したのだろうと考えられていたわけです。
これまで月から炭素が見つかっていないことも、この説を有力にする根拠となっていました。
ところが今回、かぐやに搭載されたプラズマ分析装置を用いて、太陽光で電離された月のガス物質を調べたところ、ほぼ全表面から流出する炭素イオンが検出されたのです。
これは、ジャイアント・インパクト説を覆し、新たな月誕生モデルの再考を促すきっかけになるでしょう。
一方、炭素は太陽風や宇宙チリによって月に持ち込まれることもあるため、検出された炭素が月本来のものであるか疑問です。
しかし、かぐやの観測は、この点もクリアしています。
この図は、検出された炭素イオンをもとに割り出した地域別の流出量です。
これを見ると、炭素の流出には地域差があり、月が元から炭素を含有し、月内部から流出していることを示します。
これを機に、月誕生モデルは、揮発性物質を含まないものから揮発性物質を前提としたものに生まれ変わることが期待されます。
もしかしたら、月は元から水や炭素のないドライな天体だったのではなく、それらを多分に含むウェットな天体だったのかもしれません。
研究の詳細は、5月7日付けで「Science Advances」に掲載されました。