- 小惑星帯トロヤ群に、尾のある小惑星が発見され天文学者の間で話題となっていた
- 尾は主に氷でできた彗星が持つもので、乾いた岩石である小惑星にはできない
- 詳しい調査の結果、この小惑星と思われたものは、小惑星帯に迷い込んだ彗星と判明した
ポイントの段階でもうすでにがっかりですが、5月始めハワイの天文台が報告した、小惑星帯トロヤ群の中に見つかった尾を持つ新しいタイプの小惑星は、「ただの彗星だったみたいですテヘペロ(・ω<)」と修正されてしまいました。
大々的に世界へプレスリリースを発表したのに、勘違いでしたとなると担当者ならちょっとヒヤッとしてしまう問題ですが、天文学に関しては、こうした勘違いはさほど珍しいものではありません。
観測技術が向上したとはいえ、遠く離れた宇宙を地球から見ているわけで、最初の発見だけではわからないことも多いのです。
何も特殊なものを見つけ出すことばかりが発見ではありません。こうして不思議に思えるものをつぶしていくことも、新たな発見になるのです。
そして、実際この発見は、単にがっかりなだけではないようです。
混乱の原因はなんなのか?
以前この話題を取り上げた記事で詳しく解説をしていますが、尾は彗星の持ち物です。
彗星は主に氷で引っ付いた塵などでできているため、太陽に近づいたとき氷が揮発して、彗星から離れたガスやチリがキラキラと輝き尾のように観測されます。
地球で見られる流星群は、この彗星の通り道を地球が通り抜けるためで、宇宙に置き去りにされた尾の成分が、大量に大気圏へ降り注いで流れ星の雨になるのです。
「〇〇座流星群が今夜極大!」というニュースは、彗星の軌道に地球が飛び込むタイミングを予想しているわけです。
一方、小惑星は乾いた岩石でできているため、揮発してチリをばらまくことはありません。なので通常尾は持たないのです。
ただ、尾のある小惑星がまったく未知の天体というわけではなく、これまでも非常に稀ではありますが、活動的小惑星という分類で尾の生えた小惑星は見つかっていました。
これは太陽に接近しすぎたために、内部に隠されていた氷が太陽の熱で揮発したためと考えられています。
このため活動的小惑星は、非常に楕円形の軌道を通って、太陽との距離が大きく変わるような小惑星の場合、まれに見られる特徴と考えられていたのです。
ちなみにふたご座流星群の原因となっている天体は、この活動的小惑星です。
これで大体の小惑星と彗星の分類については解決している、というのが天文学の認識でした。
しかし、今回報告された尾のある小惑星「2019 LD2」は場所が特殊でした。
それは小惑星帯トロヤ群という太陽の周りを惑星のように回る軌道上で、つまり太陽との距離は何十億年も前から変わっていないのです。
なので、世界中の天文学者たちが「どういうことだ?」と熱狂したというわけです。
しかし、アマチュア天文学者などが「これは小惑星ではない」ということに気づきました。
詳しく調査した結果、たまたまトロヤ群に紛れ込んだだけで、無秩序に軌道が変化している彗星だったと判明したのです。
トロヤ群はギリシャのトロイアから来ている名前ですが、まさにこの彗星はトロイの木馬だったわけです。