エピジェネティクスに基づいた計算
この研究で利用されたのが、エピジェネティクスという後天的に変化する遺伝子スイッチの発現です。
遺伝子はすべてが親からの継承によって性質が決まっているわけではありません。環境など後天的な要因によっても変化を起こします。
これを調べる際に深い関わりがあるのがDNAのメチル化です。DNAメチル化は遺伝子発現のオンオフのスイッチに影響を与えていて、ガン細胞の発生などとも関係しています。
DNAメチル化の変化を調べることで、顔のシワが年齢の手がかりになるのと同様に、細胞の年齢を知る手がかりが得られる、と今回の研究者Ideker氏は語っています。
Ideker氏はがんセンターの研究員で、もともとはアンチエイジング(抗加齢)という科学的に根拠が曖昧な医療製品に対して、その効果を調べるためにDNAメチル化という年齢調査方法を研究していました。
アンチエイジングは最近よく聞く単語だと思いますが、老化や加齢を抑制することを目指している医療製品です。
その製品に本当に効果があったかどうか知るために、何十年も待って寿命が伸びたか確認するのではお話になりません。
そのため、Ideker氏はアンチエイジング製品を使用する前と後の遺伝子のメチル化パターンの変化を測定することで、老化の状態に変化が起きたかを調べていたのです。
ただ、ずっと人間を眺める研究に飽きてしまったそう。そんなとき、研究室の大学院生だったTina Wangが、犬の老化と比較する研究を提案してくれたのだといいます。
面白いアイデアだと考えたIdeker氏は、獣医学博士の Danika Bannasch氏と、犬のゲノム配列を初めて決定した研究者である国立ヒトゲノム研究所の主任 Elaine Ostrander博士を仲間に引き込んで、共同研究を開始しました。
Bannasch氏は、この研究のために105頭のラブラドールレトリバーの血液サンプルを提供してくれ、その解析にOstrander博士も貴重な情報を提供してくれました。
こうしてゲノム解析から遺伝子の年齢を測定するという方法で、人間と犬の年齢比較が実現したのです。